2022 Fiscal Year Annual Research Report
拡張されたコネクショニスト認識論を応用した素朴心理学の認知哲学的分析
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21J20803
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤原 諒祐 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 認知科学の哲学 / 心の哲学 / 素朴心理学 / 社会的認知 / コネクショニズム |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は主に以下の課題にとりくみ、いくつかの成果を得た。 ①他者理解の理論説の様々なバリエーションについての整理。他者理解のあり方についての 1 つの立場として、他者理解は心と行動についての素朴な理論的知識(素朴心理学)にもとづく推論的過程であるという「理論説」が存在する。理論説は多くの論者によって支持される一方で、それぞれの論者の主張にはいくつものパリエーションがある。本研究は理論説にもとづき他者理解や素朴心理学の本性を解明することを目的とするものであり、理論説論者による様々な議論を改めて整理することが必要であった。そこで、従来の整理(例えば、マーティン・デイヴィス、トニー・ストーンらによるもの)を下敷きにしつつ、理論説を、何を説明対象とするか、科学理論についてどのような見方をとるか、科学理論と素朴心理学とのアナロジーにどの程度コミットするのか、どのような計算論的モデルを措定するか、といった観点から分類整理した。その成果は、博士論文の一部に含める予定である。
②他者の心の直接知覚の可能性を認めるようなタイプの理論説の検討。理論説の批判者(ショーン・ギャラガー等)によってしばしば提示される議論として、他者の心は直接知覚可能であり、その把握のために理論的推論は不要であるというものがある。これに対して、ピーター・カラザーズやジェーン・ラヴェルといった理論説論者が理論説の立場から心の直接知覚を説明する議論も存在する。こうした議論や、それに対するギャラガーらによる応答を踏まえて、どのようなタイプの理論説をとれば、心の直接知覚の可能性を認めることができるのか検討した。その結果、心の直接知覚可能性を主張する議論と両立するかたちで、理論説が措定する「理論」や「推論」を捉えることができることを見出した。この成果の一部は、神戸大学大学院人文学研究科におけるワークショップにおいて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では本年度中に取り組む予定だったいくつかの課題については、未だ遂行できていない。一方で、理論説の様々なあり方についての分類・整理や、心の直接知覚にかんする批判に対する理論説からの応答の提示といった成果を得ることができた。また、これらの成果に繋がる検討の中で、理論説がその他の立場に対してどのような利点をもつか、より有望なバリエーションの理論説がどのようなものか、また、理論説の背景にある認知メカニズムについてどのようなモデルをたてられるか、といった点について一定の示唆を得ることができた。これらの成果や示唆は、理論説の立場から素朴心理学の認知的機序を明確にしようという本研究の大きな目的からすると、重要な進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は理論説と心の直接知覚(直接的社会知覚)の両立可能性について引き続き検討する。具体的には、直接的社会知覚の背景にある暗黙的な認知プロセスを、ポール・チャーチランドが提示するコネクショニズム的な理論観を参考にしつつ、理論的推論として記述することを試みる。 さらに次年度は、近年注目されている他者理解や素朴心理学の多元性についての考察も行いたい。そこで、理論説の一種であり、素朴心理学の多様なあり方を捉える立場として注目されているモデル説に着目し、モデル説の擁護者(ハイジ・マイボム、ピーター・ゴドフリー=スミス、シャノン・スポルディングなど)の議論をもとに、素朴心理学の多元性を、素朴心理学を構成するモデルにかんする多元性として捉えることを試みる。 次年度は、これらの課題と本年度までの課題の成果を踏まえ、本研究全体の目的の達成を目指す。そこでは、脳内処理や知覚についてのコネクショニズムの議論、及び、言語的思考や認知への環境・文化・社会の影響についての「拡張された心」の議論を参考にしつつ、素朴心理学を支える認知機構について、理論説的な描像と整合的であり、かつ、さらなる経験的検証の素材となるようなモデルを提示することを試みる。
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Remarks |
藤原諒祐(2023)「他者の心の知覚可能性と理論負荷性」、ワークショップ「人間ではない存在者の心」、神戸大学大学院人文学研究科、2023年3月。
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