2021 Fiscal Year Annual Research Report
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21J20818
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡慶次 孝気 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 原始ブラックホール / インフレーション / 宇宙論的摂動論 / 確率形式 / ボレル総和法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、原始ブラックホール(PBH)の形成量が持つ不定性の克服、および背景重力波観測によるPBHシナリオの精密検証を目標とするものである。当該年度は特に、(1)PBHの形成条件が初期形成量に与える不定性の定量的評価に関する研究と、(2)確率形式において形式級数として与えられる場の時間発展をBorel総和法により正しく取り扱う研究に取り組んだ。 研究(1)について、PBHの形成判定条件として多くの文献で用いられている二つの方法:(a)形成点における密度揺らぎの振幅閾値と極値の形状による形成判定、および(b)形成点周辺における質量圧縮に基づいた形成判定、を比較検討することを目的として、統計的に振る舞う揺らぎを条件付き確率分布ないしは結合確率分布によって記述する定式化を与えた。この下で、Carrの解釈によりPBHの初期形成量を算出した。この結果、(a)の方法と(b)の方法はオーダーレベルで不定性があること、両者が適切なスケールで等しい形成量を予言するためには揺らぎの振幅が10倍程度弱められることを示し、さらに(b)の方法を用いるにあたっては(a)の情報も取り込むことが望ましいことが示唆された。 研究(2)について、PBH形成にいたる大振幅密度揺らぎの振る舞いを(非摂動的に)正しく記述する枠組である確率形式において、揺らぎの形成にいたるスカラー場の挙動を考えたとき、その時間変数に関する級数展開が一般に形式級数(発散級数)となることが知られている。本研究では、形式級数に解析的意味付けを与えるBorel総和の手法を用いて、場の時間発展の正しい振る舞いを導き出すことに成功した。また、Borel空間に分布する特異点の情報から、四次の自己相互作用を示す場のダイナミクスには(Borel総和の意味で)非摂動的な効果が存在しないことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原始ブラックホール(PBH)の形成条件が初期形成量に与える不定性に関する研究について、定式化を与えること、および我々が与えた定式化の下で予言される初期形成量の定量的評価が完了している。このため、当該年度は本研究に関する研究発表を3件行なうことができ、本項目入力時点では論文の最終チェック段階にある。 確率形式における形式級数の処理に関する研究は、Borel総和法の機能および特異点と非摂動効果に関する考察が完了し、プレプリントを投稿の上、雑誌JHEPの査読待ちである。また、当該年度末に本研究に関する学会発表を行なった。 以上のことから、現在までの進捗状況はおおむね順調であると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
原始ブラックホール(PBH)の形成条件の不定性に起因する初期形成量の相違に関する研究では、簡単のため揺らぎがすべてガウス的に振る舞うことを要請していた。しかしながら、PBH形成にいたる大振幅揺らぎはガウス性から逸脱した振る舞いを示すことが多くの文献で指摘されており、さらに揺らぎの重力崩壊の際に現れる臨界的な振る舞いも重要な効果を持つことが知られている。このため、我々が考案した定式化を非線形性、非ガウス性の存在下でも使えるように拡張し、より現実的な記述を行なうことが望ましい。これは、PBHの存在に係る当否が将来的な背景重力波を用いた観測によって検証されるという観点からも、欠かすことのできない将来展望である。 確率形式における形式級数の処理に関する研究について、我々は背景に比べて非常に軽い場が四次の自己相互作用を持つ場合に限ってBorel総和法の機能を調べた。この結果、Borel空間の特異点の分布が非摂動効果の非存在を示唆することが分かった。場が初期宇宙の加速膨張を引き起こすインフラトン自身である場合に、Borel総和法が機能するか否かを見ることの意義は大きいであろう。また確率形式の文脈で、Borel空間の特異点が非摂動効果を示唆する場合の研究についても、現在、共同研究者と議論を行なっている最中である。
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