2023 Fiscal Year Annual Research Report
軟骨魚類の広塩性メカニズムの解明:「海水魚」がなぜ低塩分環境に適応できるのか
Project/Area Number |
22KJ0602
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
油谷 直孝 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 広塩性 / 軟骨魚類 / 腎臓 / 尿量 / 糸球体濾過量 / アクアポリン / 膜輸送体 |
Outline of Annual Research Achievements |
エイ・サメを含む軟骨魚類のほとんどは海水魚であるが、例外的に淡水へ進出を果たした広塩性種も存在し、淡水中でも高浸透圧の体液を維持する特徴的な適応を行う。本研究では、入手が容易な広塩性種であるアカエイを用いて、過剰な水を積極的に排出できる唯一の器官である腎臓の機能変化に注目し、その淡水適応メカニズムを解析した。 まず、アカエイを海水から低塩分環境、そして再度海水へと次々馴致させる飼育実験を行った。低塩分環境では、尿量が87倍にも上昇する一方で、糸球体濾過量は約7倍しか上昇しないことを世界で初めて明らかにした。同時に腎臓内での溶質再吸収量は増加し、さらに水再吸収量が減少することで、低塩分環境での大量の希釈尿生成を達成していることを突き止めた。これら腎機能の生理学的パラメーターは全て海水への再馴致により元のレベルに戻ったことから、環境の塩濃度に合わせて制御される現象であることが示された。 次にこの分子的なメカニズムを明らかにするために、腎臓の機能単位であるネフロンにおいて、溶質や水の再吸収を担う輸送体とチャネル遺伝子の発現解析を行った。近位尿細管前部(EDT)と集合細管では、それぞれNaClと尿素の再吸収を担う輸送体の発現が淡水で上昇し、海水再馴致個体で元のレベルに戻ることから、溶質再吸収の亢進はEDTや集合細管を中心に起きていることが示唆された。加えて、遠位尿細管後部(LDT)における複数のアクアポリンの発現が淡水で減少しており、LDTで水再吸収が抑制されていることが示唆された。一方で、ネフロンを取り囲む細胞膜や近位尿細管第一分節での水輸送・再吸収は淡水環境で亢進され、海水再馴致でもとのレベルに戻ることを確認した。このことは、これら領域での水輸送上昇が軟骨魚類特有の尿素保持機構のためであることを示唆しており、広塩性軟骨魚類に特有の水・電解質・尿素バランス制御モデルの提唱に至った。
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