2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
21J21339
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
顧 嘉晨 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 遺民 / 明末清初 / アイデンティティー / 孤臣 / 王夫之 / 李楷 / 張振甫 / 陳元贇 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究者は本年度においては、多角的に遺民の研究を進めた。具体的な研究内容、進行状況および研究実績は以下の通りである。 (1)南方遺民の研究:研究者は、前年度中国社会文化学会における口頭発表をもとに、論文「王夫之の遺民像について」を執筆し、『中国―社会と文化』に掲載された。この論文は、「中華の遺民(ナショナリスト)」、「中華の遺民(ハーミット)」、「明の遺臣(ロイヤリスト)」という三つの視点から、明末清初の南方出身の遺民である王夫之自身の遺民像を論じたものである。同時に、王夫之の「孤臣」という「アスペクト」を明らかにする研究も行った。その研究成果を論文「『孤臣』――もう一つの王夫之像を読み解く」としてまとめて、『中国哲学研究』に発表した。内容としては、単に王朝交代に遭遇した亡国の遺民であったとする従来の研究に対して、「孤臣」というもう一つの視点から、王夫之が「孤臣」となった経緯及びその生き方を捉え直すものである。 (2)北方遺民の研究:研究者は、従来の南方遺民の視点から少し距離を置き、明末清初に江南に寄寓した北方出身の李楷の事例分析を通じて、北方遺民が考えた「遺民」の概念を解明し、明末清初における遺民思想を再考した。その研究結果を「李楷の遺民論について」という題目で日本中国学会にて発表した。また、上記発表の内容に基づく論文を執筆中である。 (3)海外遺民の研究:明清交替期に中国大陸に残留した遺民に対して、来日した明の遺民についても考察した。研究者は前年度名古屋で行った調査結果の一部に基づいて市民講座を開催し、その成果を地元の住民に還元した。上述した市民講座では、明の遺民が来日した歴史、とりわけ名古屋に移住した明の遺民、張振甫と陳元贇について、名古屋市千種区に残る史跡と共に紹介した。さらに「海外の遺民」に関する議論を進めるために、戴曼公、張斐などの人物を考察する作業にも取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画通り、これまでの遺民研究を踏まえて、特に大きな問題もなく、「遺民」について多角的に検討して研究を進めることができた。とりわけ、学会発表、市民講座などを行い、査読論文二本も掲載された。しかし、研究成果を論文として取りまとめたことには、予定以上の時間がかかり、新たな研究計画に関する一部の進行を遅延せざるを得なくなった。一方で、本研究にとって漢籍の調査は研究遂行上不可欠である。幸い、新型コロナウイルスに関する制限の緩和や海外にいる研究者の協力により、各蔵書機関での漢籍の調査も順調に進み、望ましい研究成果を挙げている。令和四年度の研究はほぼ当初の予定通りに進展したため、全体的に見ても本研究はおおむね順調に遂行されていると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は、文献調査研究を中心に進め、その成果をまとめ、学会などで研究発表を行い、学術雑誌に投稿する予定である。具体的には、日本と中国の各蔵書機関に所蔵されている『宋遺民広録』などの文献を調査し、それらの基本情報を把握した上で、明末清初における宋遺民に対する発掘活動を勘案しつつ、『宋遺民広録』における諸問題をできる限り検討する。さらに、その調査結果をもとに論文を執筆し、海外の学会で発表することにより、多様な分野の国際研究者との学術交流を図る。また、『宋遺民広録』の研究に限らず、明朝滅亡後、日本に亡命してきた明の遺民にも注目し、さらにその発掘作業も進める予定である。彼らは、最新の大陸文化に精通した優れた人物が多く、多様な思想文化を日本に伝えたため、日本史との関係を究明する上で重要な手がかりと考えられる。具体的には、日本各地の大学、図書館、蔵書機関を定期的に訪問し、来日した遺民に関する一次漢籍史料を網羅的に収集、分析し、その思想が日本にどのような影響を与えたかを考察していく。
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