2021 Fiscal Year Annual Research Report
認知的スキルの診断を学習者の背景情報を考慮して行う統計モデル群の拡充と基盤構築
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21J21435
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
丹 亮人 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 測定の不変性 / 認知診断モデル / 共変量 / ベイズ罰則化 / 項目反応モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の計画は、既存の複数の認知診断モデルを学習者の背景情報を取り入れた説明的認知診断モデルへと拡張することであった。本年度実施した研究は大きく分けて3つである。1つは、修得すべき複数の認知的スキルの間に階層的関係がある場合であっても、それら認知的スキルと学習者の背景情報との関係を説明できるようなモデルを開発し、シミュレーションおよび実データへの適用の結果を含めて国際学会で発表したことである。2つめは、PISAなどの国際大規模調査などでコンピュータを通して実施される複雑な問題解決能力を測定するテストで得られるログデータを用いて、生徒のテスト中のアクションやそれにより測られている認知的スキルと、生徒の背景情報との関係を説明できるモデルの開発を行い、実際の大規模調査で使われたテストへの適用結果とともに国際学会で発表したことである。3つめは、理論やモデルの整理および精緻化である。テストの項目や認知的スキルと学習者の背景情報との関係を調べることが、心理・教育測定のための統計モデルにおいて歴史的にどのような観点で重視されてきたのか、どのような統計手法や統計モデルが適用されてきたのか、これからどのような発展を望めるのかといったことを主に文献研究による整理で進めてきた。これにより、実践上の問題としては、モデルの識別性に焦点を当てることが重要であることがわかった。これまで開発の手がかりとしてきたベイズ罰則化の役割がモデルの識別性の観点から明確になったことで、認知診断モデルで識別性のためのシミュレーションに着手し始められただけでなく、認知診断モデルと類似性が高く、広く現場で使われてきた潜在変数モデルである項目反応モデルでもシミュレーションを行うことで、心理・教育測定の歴史において、説明的認知診断モデルがどのような立ち位置にあり、どのような問題に対処できそうかといったことが明確になってきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度の計画としては、実際に実施したものより多くのモデルの拡張を想定していた。しかしながら、拡張するモデルの量を重視するよりも、実践上重要な観点と最新の技術に対応した観点でのモデルの拡張を行うことが優先であると考えた。さらには、心理・教育測定学の歴史的に重要なテーマである測定の不変性にまつわる諸問題を整理していくうちに、このテーマにおいて優先されるべき研究課題が見えてきた。これらのことから、当初の予定をやや変更したものの、国際的に先駆的な研究を行うための方針が見えてきており、既にそのための研究を複数進められているため、おおむね順調に進行していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は次の3つの観点で進めていく予定である。1つは、心理・教育測定学における測定の不変性に関する特異機能のレビューを進めていくことである。これは、文献による理論研究だけであるとは限らず、必要に応じてシミュレーションなども踏まえながら従来法の有用な点や限界点を整理していく作業である。2つめは、認知診断モデルにおける特異機能に対して、ベイズ罰則化による解決策を提案する研究である。特に識別性の観点からのシミュレーションや実際のデータへの適用を踏まえて研究を行う予定である。3つめは、国際大規模調査における項目反応理論の特異項目機能にまつわる諸問題に対して、ベイズ罰則化により対策案を提供する研究である。実際の国際大規模調査データに対して対策案を適用し、どのような観点で従来法よりも良いのかについての議論を踏まえた上で、その有用性を示す予定である。
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