2021 Fiscal Year Annual Research Report
二重主義体制下ハプスブルク帝国のムスリム及び対ムスリム政策
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21J22866
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
奥田 弦希 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | ハプスブルク帝国 / オーストリア / ボスニア・ヘルツェゴヴィナ / ムスリム / 1912年イスラーム教法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の初年度である2021年度は、1908年のボスニア併合以降のハプスブルク帝国のムスリムに対する政策の形成過程に関して、帝国のオーストリア半部の動向に分析の重点を置いたが、予定されていたウィーンでの在外研究ならびに史料調査・文献収集をコロナ禍により延期したため、国内から行える分析作業に専念した。 はじめに行ったのが関連する二次文献の収集・整理である。1912年イスラーム教法の成立過程について言及した、本研究の直接の先行研究となる文献に加えて、より広い範囲の本研究と密接に関連する研究文献を渉猟した。特に研究を進める中で、同法の法案作成に至るまでの前史、ならびに帝国議会での法案審議から公布に至るまでのその後の展開を踏まえて、同法の成立過程を前後の同時代的文脈のなかで把握する必要性について重要な指摘が寄せられたため、1878年のボスニア占領以来のオスマン帝国との外交関係や、ボスニアにおける帝国のムスリムに対する政策について扱った先行研究を精読し、同法の成立過程を当時の国際情勢や帝国のボスニア統治と関連づけて把握するよう努めた。 さらに国内から行える一次史料の分析作業として、刊行史料やオンラインで閲覧できる史料、これまでの現地史料調査で撮影・入手した未刊行史料の分析を進めた。これらの分析から得られた成果のひとつとして、1912年イスラーム教法の法案作成をめぐる関係各省間の会議に先立って作成された同法の草案A~Cに着目することの必要性を認識できた点が挙げられる。この草案A~Cは先行研究では散逸したとされていたが、会議に先立ち関係各省に送付された同草案の写しからその内容を独自に確認することができた。同草案の内容については2021年11月の史学会大会での研究報告にて紹介したが、草案の内容を同法の成立過程のなかに位置づける作業については目下の課題として取り組んでいるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
コロナ禍により当初の研究計画にあったウィーンでの在外研究は延期、イスタンブール及びサライェヴォへの渡航は中止したため、未刊行史料の収集・閲覧は十分に行えず、研究の進捗状況としては遅れていると言わざるを得ない。一方で本年度は二次文献や刊行史料・オンラインで閲覧できる史料の渉猟、さらにこれまでに撮影・入手した未刊行史料の再検討を通じて重要な知見を得ることができた。また渡航を延期し国内にいる間も、在外研究での受入先のウィーン大学東欧史研究所の研究者とは電子メール等で連絡を取り合っており、2021年5月には同研究所のTamara Scheer氏の主催するセミナーにてオンラインで研究報告を行う機会を得て、同氏や出席している研究者たちと活発な議論を交わすことができた。さらに現時点までで得られた研究成果の公表として、早稲田大学ナショナリズム・エスニシティ研究所主催の第1回 WINE 若手研究者発表会(2021年9月)、および第119回史学会大会西洋史部会(2021年11月)にて研究報告を行なうことができた。最後に2022年3月からは、当初の計画からは後ろ倒しとなったが、令和3年度日本学術振興会若手研究者海外挑戦プログラムを利用して、ウィーン大学東欧史研究所での在外研究ならびにウィーンでの史料調査・文献収集を開始することができた。コロナ禍により当初の研究計画の変更を余儀なくされていることは事実だが、そうしたなかでも二次文献の渉猟やオンラインで公開されている史資料の利用、これまでに入手した未刊行史料の再検討、現地の研究者とのネットワークなどを通じて研究計画の遅延を可能な限り抑えられたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
コロナ禍が近いうちに終息することは依然として望めないため、必要に応じて研究計画の見直しを行う。現在のオーストリアでは新型コロナウィルス感染症に関する規制が緩和されつつあり、幸運にも2022年3月からウィーンでの在外研究ならびに史料調査を開始できているが、今後の見通しは依然として不透明だと言わざるを得ない。採択期間内に再度の渡航ができない可能性もあるため、今回の滞在中に可能な限りの研究文献や未刊行史料の収集を行う予定である。帰国後もインターネットの利用や現地の研究者とのネットワークを通じて研究計画の遅延を引き続き可能な限り抑えていきたい。また研究成果の公表に関しては、WINE 若手研究者発表会ならびに史学会大会で行った研究報告をもとにした査読論文の執筆を進め、2022年度内の採択を目指す。
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