2022 Fiscal Year Annual Research Report
Multi-scaled asteroid science by combining thermophysics and dynamical evolution
Project/Area Number |
22J00435
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
金丸 仁明 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 小惑星 / 二重小惑星 / 熱物理 / Julia言語 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、小惑星の力学進化と熱物理を統合的に取り扱える数値シミュレーション「Astroshaper」の開発を行なっている。研究期間初年度には、主に小惑星の熱物理シミュレーションの機能強化に取り組んだ。Astroshaperでは、小惑星の3次元形状モデルにもとづき、小惑星表層の温度分布とその時間変化を計算することができる。さらに、小惑星表面からの熱放射によって生じる微小な圧力を計算することで、そうした非重力効果が小惑星の軌道や自転に及ぼす摂動を予測することができる。太陽系探査の分野で広く使われているSPICEと呼ばれるデータ形式に対応したことで、探査機のデータを用いてミッションに即した数値シミュレーションを行うことができるようになった。2022年度には、Astroshaperが提供する熱物理シミュレーションの機能を二重小惑星にも適用できるように改良を行なった。これを用いて、欧州の探査機Heraが目指す二重小惑星Didymos-Dimorphosの熱物理シミュレーションを行い、観測条件の事前検討や小惑星の長期進化の予測に貢献した。Astroshaperはプログラミング言語Juliaのライブラリとして開発しており、サンプルコードとともに公開している(https://github.com/Astroshaper)。これによって、他の研究者も簡便に小惑星の熱物理シミュレーションを行うことができるようになった。小惑星周囲の放出物の軌道シミュレーションや将来ミッションの事前検討など、Astroshaperを用いた共同研究が始まっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
数値計算ライブラリ「Astroshaper」の開発は順調に進んでいる。オープンソースコードとして公開するにあたり、ライブラリの整備やサンプルコードの準備に想定以上の時間を要したものの、そのおかげで今後の開発を効率よく進めていくための下準備ができた。ライブラリの設計や依存関係を整理するとともに、今後行うコードのリファクタリングや機能拡張について検討した。Astroshaperが提供する熱物理シミュレーションの機能は、小惑星探査ミッションの事前検討や研究に導入され、いくつかの共同研究も始まっている。また、小惑星の軌道や自転に働く非重力効果についても数値シミュレーションによる予測ができるようになっている。小惑星Didymosとその衛星Dimorphosの表面温度変化と非重力効果をシミュレーションし、Heraミッションの科学検討に貢献している。二重小惑星の長期的な力学進化に対する影響については、今後の検討課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
数値計算ライブラリ「Astroshaper」の改修(リファクタリング)を予定している。パッケージを機能ごとに分割し、互いの依存関係を整理することで、今後の継続的な開発を円滑に行えるようにする。また、小惑星表面の凹凸による熱放射特性への影響といった熱物理を新たに実装する予定である。これによって、探査機に搭載された熱赤外カメラの画像と比較して熱物性を推定できるようになるなど、今後の小惑星探査ミッションにとって有用なソフトウェアとなることが期待できる。2年目は、はやぶさ2拡張ミッションやHeraミッションで得られる熱赤外カメラの画像を数値シミュレーションによって模擬することで、観測条件の事前検討を行う。Heraミッションが目指す小惑星Didymosは衛星Dimorphosをもつ二重小惑星である。主星や衛星の影によって生じる蝕の観測に向けて、熱赤外カメラの撮像間隔など、熱物性の推定に必要な観測条件を求める。また、熱物理シミュレーションを用いたパラメータサーベイを行なって、小惑星の軌道・自転・熱物性が長期の力学進化に与える影響を調べる。
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