2022 Fiscal Year Annual Research Report
ナス科自家不和合性における重複遺伝子SLF群間の協調的作用機構の定量評価
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22J00750
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
増田 佳苗 東京大学, 農学生命科学研究科, 特別研究員(CPD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2027-03-31
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Keywords | 自家不和合性 / ナス科 / 全ゲノム解読 / トランスポゾン / タンパク質構造予測 |
Outline of Annual Research Achievements |
自ら動くことが出来ない植物は、遺伝的多様性の拡大のために多様な他殖性システムを種特異的にいくつも成立させている。その中でも、自己と非自己を識別し、交配相手として非自己を選択するシステムは自家不和合性と呼ばれる。この自家不和合性は、植物特異的に頻繁に生じる遺伝子重複によって、進化の中で破壊と再構築を柔軟に繰り返す可能性が示唆されており、植物が独自に進化させてきたシステムでもある。本研究では、ナス科の自家不和合性に着目し、系統特異的にタンデム重複を繰り返す花粉側因子の機能進化をモデル化することで、植物の他殖性システムを可塑的に変化させる分子メカニズムを明らかにすることを目的としている。 ナス科の自家不和合性はSハプロタイプに座乗する花柱側因子 (S-RNase)とS-RNaseを分解する花粉側因子 (SLF群)によって制御されており、SLF群の重複と交換によって自家不和合性システムの柔軟性は駆動されている(Kubo et al. 2010 Science, 2015 Nature Plants)。しかし、Sハプロタイプにおけるゲノム構造の複雑性から、この重複SLF群の進化原理は謎に包まれてきた。本研究では、ナス科の自家不和合性に着目し、Pacbio HiFiシークエンス技術を利用した全ゲノム解読・AIタンパク質構造予測の技術を活用して、植物の他殖性システムを可塑的に変化させる分子メカニズムを明らかにすることを目指してきた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、多様なSLF群の遺伝子配列とゲノム構造多様性を検出するため、高精度ロングリード解読の技術であるPacbio HiFiシークエンスを利用して、多様なSハプロタイプを含む自家不和合性または自家和合性の他殖性システムを持つ計10系統の全ゲノム解読を行った。5系統については、約20~30 Mbに及ぶS遺伝子座の全長配列を取得することが可能であったため、ゲノム上におけるSRNaseと重複SLF群の位置関係を明らかとし、同様のSLF群を持つ系統においてもSハプロタイプ上のゲノム構造を変化させていることが分かってきた。さらに、S遺伝子座周辺は、遺伝子密度も低く、リピート配列の蓄積パターンからもセントロメア周辺領域に位置している可能性が考えられた。現在、ゲノム構造の解析については、トランスポゾンの蓄積パターンおよび蓄積年代なども併せて、Sハプロタイプに関わるゲノム構造進化の過程を明らかとする解析を進めている。また、AIタンパク質構造予測では、Alphafold2とOmegafoldを利用して、重複SLF群のタンパク質構造を評価した。その結果、アミノ酸配列には大きな違いはないものの、予測したタンパク質構造では大きく構造が異なるSLF群を特定することができたため、今後はこのSLF群に着目して、機能獲得・再編成が起こっていないかを確認していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
ゲノム構造解析については、Sハプロタイプ上の重複SLF群の位置関係、非同義置換率を比較することによって、重複SLF群の重複・喪失の過程を明らかにしていきたいと考えている。また、S遺伝子座における特徴的なリピート配列を特性化することにより、重複SLF群だけでなくS遺伝子座の進化原理についても視野に入れながら、現在進行形の進化を続ける重複SLF群が関わる自家不和合性の成立と喪失の進化メカニズムを今後明らかにしていきたい。タンパク質構造予測の解析については、タンパク質構造変化を予測する結果が得られてはいるものの、その結果の正確性については今後要検討をしていく必要があると考えている。今後は、結晶構造が既知のタンパク質にも着目しながら、予測結果の正確性や予測ツールの脆弱性・利用可能性の理解を進めていきたいと考えている。また、同時に、予測された構造変変化がSLF群のSRNase分解機能に影響を与えるのかについても検証を進めていきたいと考えている。
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