2023 Fiscal Year Research-status Report
圧力スケールの構築に基づいた高温高圧その場分光測定による沈み込み帯流体の構造解明
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22KJ0744
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
高橋 菜緒子 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 外熱式ダイヤモンドアンビルセル / ラマン分光 / ケイ酸塩 / タングステン / 沈み込み帯 |
Outline of Annual Research Achievements |
外熱式ダイヤモンドアンビルセル(DAC)装置を用いたその場振動分光測定実験より、高温高圧下における分子の振動特性にアプローチするため、ジルコンのラマン圧力スケールの校正温度圧力範囲を拡大する実験を行い、その成果を2023年度に国際誌に出版した。この圧力スケールを用いて、ケイ酸塩とタングステンの溶存状態に関する高温高圧下その場ラマン分光測定実験を実施した。地質流体の重要な成分である塩を含む流体中のケイ酸塩鉱物の溶解機構を明らかにするために、ケイ酸塩鉱物と平衡なNaCl/CsCl水溶液のラマンスペクトルを測定した。本実験では、高圧高温下でNaCl/CsCl成分が溶存ケイ酸塩の重合度や新たな複合体形成に影響を与える分光学的証拠は得られなかった一方、塩の組成と濃度に依存した水のOH伸縮領域の系統的な変化を捉えることができた。 さらに、沈み込み帯流体中のタングステン(W)の溶存状態を明らかにするため、室温から800 ℃、1.2 GPaまでの条件でWが溶解した流体のラマン分光測定を行い、先行研究の比較的低い温度圧力条件(400 °C、60 MPa)を大幅に拡大した。その結果、400 °C以上の高圧下で八面体ユニットを持つパラタングステン酸のW-O振動波数と近いラマンバンドが優位になり、水溶液の初期pHに依存した高温高圧下での溶存状態に違いが明らかになった。この結果は、熱水中のWの溶存状態に関する新たな知見であり、沈み込み帯深部でのW安定同位体分別機構にも示唆を与える。これらの成果の一部は、国内学会での発表が受理されており、現在国際誌への投稿を準備中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究2年目の2023年度には、アメリカ・ワシントンDCカーネギー研究所に半年間滞在し、最大出力500 mWの488 nm半導体レーザーを備え付けたラマン分光装置とバセット型外熱式DAC装置を用いて、高温高圧下で系統的かつ高いS/N比のラマン分光データを取得することに成功した。また、国内では岡山大学惑星物質研究所での共同利用研究を申請し、同様の実験装置を用いた実験の検討や出発物質の合成を行うことができた。これにより、本研究が目指す地球内部の岩石-水反応モデリングにおいて重要な溶存種の熱力学パラメータ設定に直結するケイ酸塩やタングステンの溶存形態に関する成果を得ることができた。以上の理由から、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、組成やpH、fO2を制御した系で高温高圧下その場振動分光測定実験を進めている。しかし、高温高圧下で測定されるラマンスペクトルを解釈する際には、常温常圧下での分子振動特性との直接比較が困難であるという問題がある。溶存ケイ酸塩に関しては高温高圧条件での理論的研究が進んでいるが、溶存タングステンに関する研究は主にタングステン酸イオンに限られていた。そこで、振動スペクトル計算により実験結果を補完的に解釈する予定である。最終年度には、これらの成果をまとめて国際誌に論文を投稿する予定である。
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