2022 Fiscal Year Annual Research Report
The Principles of Taxation in terms of Science and Technology Developments
Project/Area Number |
22J01192
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
沈 恬恬 東京大学, 社会科学研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 国際課税 / 国際貿易 / 租税政策 / 社会保障法 / 人的資本 / 公保険 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、科学技術の発展という遠因に伴い変動してきた人口問題・労働雇用問題・医療保険問題に関連する社会保障法・財政法・租税法のそれぞれの隣接する理論域を検討し、口頭発表を行った。中国については、中国の「一人っ子政策」に関連する社会保障政策の変遷について整理し、国家強権という視点のほかに、資本社会が形成されていくなか、個々人は経済的リスクに基づく選択を行ってきたという視点も言及した。日本については、上記の三つの法域をまたいでいるにもかかわらず、どの法域でも正面から取り上げあられたことがなく、放置されてきた国民健康保険税(料)の「減免」をひとつの切り口に、保険学や財政論の「算術」に取り込まれてはいけない租税法が議論すべき領域の再確認ができた。国際社会の動き全般については、とりわけ衣食住に密接する国際公法上の判例収集を行った。国際貿易と各国の租税政策との相関関係というオーソドックスな解説を踏まえたうえ、科学技術の発展によって徐々に書き直されていく認識論に注目し、資産の譲渡や譲渡資産の同一性、並びに、価値創造論と知的財産との関係についての分析を試みた。さらに、さまざまな革新的科学技術をめぐる最新の社会動向を収集した。2022年11月30日にリリースされ、公開されたOpenAIのChatGPTに注目しつつ、メディア論としての経験の意義という理論ベースを引き続き掘り下げた。ほかに、2023年3月1日から12日にかけて、中国での現地調査を実施した。この調査で得られた情報によると、中国において、ChatGPTと同じように人工知能技術を利用して自然言語を処理でき、特定の人物像や性格を持った3Dモデルとして実装され、物理的な存在を持つ「デジタルヒューマン」によるEC取引がすでに開始されていることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
社会保障法・財政法・租税法の交差という視点を取り入れたことで、人的資本に潜む「算術」の問題を明らかにできた。他方、国際課税の問題系を「変形」というキーワードで捉え直すことによって、租税法理論と社会現象の両方を視野に入れることができた。このようなプロセスを経ることで、人工知能技術の意義や価値判断の基準の在処といったことが如何に租税法に影響を及ぼすのかという問いを答える確かな理論構築ができたと考えている。 ただし、重要判例の収集と関連データベースの構築及び分析作業については、上記のChatGPTの登場に関連するため、研究計画のなかで予測していた社会実態とはやや異なった状況となっているが、統計方法と分析視点の見直しを行ったうえで、2023年度中に遂行する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、OECDパリ本部および中国での現地調査を実施するほか、2022年度で形成した理論ベースの発展形として、「料・税・債の異同」という論点に絞り、日本と国際社会の交通鉄道・インフラ整備に関連する判例収集と分析作業を行う。中国については、「来料加工」だった「香港」に関する租税政策や、進行中の国際的な経済貿易・投資プロジェクトである「一帯一路」政策に即しつつ、「貿易戦争」についての新たな議論の視点を模索する。これらの作業は、「解釈論か立法論か」というような「法学の方法論の存在論」を論じるための証拠探しではなく、法学ならではの保守性からポジティブな意義を見出し、そこに存する法学原理的な部分に光を当てることである。このため、より実存的な社会問題の提起につながることが期待される。
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