2022 Fiscal Year Annual Research Report
3D形態形成を記述するActive Nematicモデル構築-細胞性粘菌を例に
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22J01386
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
西川 星也 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 細胞性粘菌 / 3D形態形成 / 連続体モデル / Active Nematics / 定量生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は最初に、細胞性粘菌の立体的な組織形成についてwettingに基づき熱力学的な解析を行なった。その結果、半球状に集積した細胞集団が柄を中心にして球状になり、さらには柄の進展にともない組織が持ち上がることが可能となるパラメータ領域が存在することを明らかにした。この結果は、細胞性粘菌による子実体の形成が表面張力様に働く力によって駆動される可能性を示唆している。 上記の熱力学的な解析では、組織の変形が正しく行われ得ることは示すことができるが、細胞集団の運動や組織の形のダイナミクスを解析することができない。そこで、細胞集団によって構成される組織の形を位相場で、組織の局所的な変形を速度場で表す数理モデルを構築した。熱力学的な解析の知見に基づき、基質に接着した細胞の収縮力と組織の表面に働く表面張力、柄が組織を押す力を導入することによって、細胞性粘菌の立体的な組織形成を定性的に説明できることを明らかにした。基質に接着した細胞の収縮力や柄が組織を推す力はwettingに基づく解析では場所ごとの濡れ性に対応するため、この結果は熱力学的な解析と定性的に一致している。 理論計算と並行して、実験結果の定量的な解析のための手法確立にも着手した。具体的には複雑な組織内の細胞集団の運動を速度場として取得するために、PIV法の改良を行なった。最適輸送理論を用いたPIVを構築した結果、通常のPIVと同様の速度場が算出可能であることと、局所的な変形の大きさの定量化が可能なことが確認できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
近年、細胞の自発的な運動や組織の機械的な物性の変化が組織の変形に寄与する系の存在が明らかになりつつあることから、細胞が発揮する力が組織のどこで、どのように働いているのかを解析する手法の構築が要請される。こうした背景より、本研究では計測結果と直接比較が可能な数理モデルを構築することで、3D形態形成における力学的な作用の解析手法の確立を目的としている。研究計画としてはその背景として組織の形を固定し、組織内の細胞運動を表す速度場と細胞の極性を表す極性場から構成されるActive nematicsモデルを構築することを計画していた。しかし、実験モデルである細胞性粘菌の子実体形成において、組織の形が劇的に変化していることから、Active nematicsモデルの構築に先立ち、組織の形を表す位相場と組織内の細胞運動を表す速度場からなる数理モデルを構築した。これにより研究計画とは異なる順序のモデル構築になったものの、組織の変形を記述するという大きなハードルを超える見通しが立ったため、進捗状況としてはおおむね順調であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、2022年度に構築した数理モデルを組織内に2種類の細胞集団が存在するものに拡張する。上述の数理モデルは1種類の性質の細胞で組織が構成されているが、実際の子実体は異なる性質を持った複数種類の細胞集団によって構成されている。特にPrestalkとPresporeと呼ばれる細胞は大きく異なる性質を持っていることが期待される。そこで、構築した数理モデルを基にして、2種類の細胞が組織内に存在し、物理的に自然な数理モデルを構築する。この数理モデルは子実体の柄となる部分が存在しない場合、2種類の細胞集団で形成されたスフェロイドで報告されているダイナミクスを説明できることが期待される。そこで、まずは構築した数理モデルでスフェロイドの先行研究によって観察された結果を再現する。その後、子実体の柄となる部分を導入し、子実体の形成について解析を行う。ここまでの数理モデルは簡単のために2次元で考えていた。そこで軸対称性を仮定して、数理モデルを3次元へと拡張する。 2024年度には細胞の極性場を数理モデルに導入することでActive Nematicsモデルを構築する。これにより、今までの数理モデルで与えていたアクティブな力をミクロな細胞間相互作用等から導出することを目指す。この数理モデルにより、細胞性粘菌の子実体形成の性質のみならず、より一般的な数理モデルの性質についての解析を行う。この解析結果を基にして、ANモデルを用いて、実験により得た細胞の流れデータから組織内で働いている力を予測・定量化する手法を確立する。
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