2022 Fiscal Year Annual Research Report
日本のマスハウジング体制の形成期における政策理論と計画手法の検討過程に関する研究
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22J01446
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
堀内 啓佑 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 同潤会 / 内務省 / 中村寛 / レイモンド・アンウィン / 分譲住宅 / 公営住宅 / 不良住宅地区改良法 / 改良住宅 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、1915年頃から65年頃までの時期を、日本のマスハウジング体制の形成期と位置づけ、この期間において政策理論や計画手法がいかに構築されたのか、その過程の全体像を探ろうとするものである。初年度にあたる本年度には、大正期から昭和10年頃までの時期に着目し、なかでも日本初の本格的な住宅供給機関とも言える同潤会の活動や、事業遂行に関わった人物に焦点を当てた。研究の成果として主に以下の点が明らかになった。 自身のこれまでの研究では、当時内務省の技師であった中村寛が、イギリスの公営住宅政策を目標としつつ同潤会の勤人向分譲住宅の設計に取り組んでいたことを把握した。本年度には、中村がレイモンド・アンウィン(Raymond Unwin)と交流を持っていた可能性を新たに指摘することができた。アンウィンは、“Town Planning in Practice”をはじめとした住宅地計画の手法の開発にとどまらず、イギリスの住宅政策の検討過程においても中心的役割を担っていたことが知られる。中村は少なくとも大正9年頃と昭和8年頃の二度にわたってアンウィンに面会していたと見られ、住宅地の計画や関連法制の整備に関して一定の情報を得ていたと考えられる。また、中村は、同潤会の不良住宅改良事業の計画や改良住宅の設計にも関与している。この設計にあたり、中村は、住戸の平面形に一定のバラエティーを確保すること、居住に必要な設備を各戸に完備すること、衛生面や経済面に利点の多い片廊下型を採用することなどを理念として挙げているが、これもイギリスの法制度の翻訳や現地における視察などを通して得られた知見を参考としたものであったと考えられる。 これらの事実は、この時期から、西洋諸国からの知見の摂取や同潤会における実践などを踏まえながら、政策理論や計画手法に関する検討が一体的かつ連続的に進められていたことを端的に示す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度における作業として、東京や京都周辺の図書館・資料館所蔵の未公刊史料、関連団体刊行の雑誌、重要人物執筆の書籍などの一次資料の渉猟を計画していたが、順調に必要史料の収集を進めることができた。さらに、こうした文献調査に加えて、当時の関係者の親族に対するインタビュー調査も実施することができた。これらの調査を踏まえた分析の面では、大正期から昭和10年頃までの時期に着目し、この時期にすでに政策理論や計画手法に関する検討が進められていたという仮説を検証することを目標としていたが、これについても十分な成果を得ることができた。したがって、研究はおおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
二年度目には、日本におけるマスハウジング体制の形成に対して大きな意味を持ったとされる住宅営団に着目し、一年度目で把握したような戦前期の検討の成果が、住宅営団法の政策的内容や、営団住宅の計画などに対し、どのような形で引き継がれたのか検証を試みる。作業内容としては、一年度目と同様に、一次資料の渉猟と分析を軸として進める。
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Remarks |
大月敏雄(監修), 松井圭太(編集), 栢木まどか, 堀内啓佑, 伊達一穂: ─関東大震災から100年─ 同潤会アパートと渋谷, 白根記念渋谷区郷土博物館・文学館, 全60p, 2023 (分担執筆: 第3章 pp.18-35 を担当)
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Research Products
(7 results)