2023 Fiscal Year Annual Research Report
文学と思想の交差地としての現代フランスの無人島言説:近代的人間・自然像の転換
Project/Area Number |
22KJ0776
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中江 太一 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 無人島 / エコロジー / ロビンソン物語 / フランス文学 / ジロドゥ / デフォー |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、無人島小説にかかわる査読論文を一本提出し、研究発表を一つおこなった。 1. 『漂流する女性の肖像――フランスにおけるロビンソン物語の系譜とジロドゥ『シュザンヌと太平洋』の革新性』(『仏語仏文学研究』57 号、東京大学仏語仏文研究会、2023年12月、45-69頁) 本稿では、前半部で女性を主人公にした無人島小説の系譜をたどり、その上で、20世紀ロビンソン物語の古典であり、これまた女性を無人島にひとり漂着させるジロドゥ『シュザンヌと太平洋』の革新性を検討した。具体的には、カトリーヌ・ヴォワレ『エマ』、ジェルマニー伯爵夫人『ロビンソンの孫娘』を中心に当該ジャンルにおける女性表象を検討し、続けて、女性漂着者シュザンヌを主人公とするジロドゥの小説の特質を探った。作品分析のみならず、先行研究をまとめ、女性漂着者の系譜を辿りなおしたことで、フランスの無人島小説史を構築する目的に一歩進んだ。
2. 10月にアゾレス大学で行われた国際学会では、 「無人島はすでに開拓されていた? エコロジーの観点からみた『ロビンソン・クルーソー』脱構築的読解」と題した研究発表をフランス語で行なった。無人島小説の起源とされる『ロビンソン・クルーソー』について、起源それ自体を問い直した。無人島にヨーロッパの動物が生息していることを踏まえ、この小説が起源、独立した人間の物語ではなく、むしろ背後にあった欧州の植民地開拓や無人島漂着譚を隠蔽することで起源となり得た作品であることを、小説の着想源とされるウッド・ロジャースの航海記を踏まえ、またアルフレッド・クロスビーの帝国主義的エコロジーの概念を参考にすることで明らかにした。本発表を修正した論考を、5月に刊行される国際査読誌Carnetsにフランス語で投稿し、査読を通過した。
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