2022 Fiscal Year Annual Research Report
『栄花物語』の政治性――儀礼・人物の叙述を中心に――
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22J11231
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
塚崎 夏子 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 栄花物語 / 物語文学 / 歴史物語 / 儀礼 / 官職呼称 / 式部卿 / 人物造型 / 安和の変 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、①『栄花物語』の儀礼に関する叙述の分析、②『栄花物語』の人物に関する叙述の分析、という二つの方法を用いて、『栄花物語』の歴史叙述が内包する政治性を明らかにすることを目的としている。 当初は①②の順に取り組むという研究計画を立てており、本年度は儀礼記事の調査分析に当たる予定であった。しかし、『栄花物語』で最初に叙述される政変、安和の変前後の記事と政変の中心となった為平親王関連の記事を調べていくうちに、次期東宮候補としての為平親王の存在が物語内でクローズアップされるとともに呼称が「四の宮」から「式部卿宮」に変化する点、一方でその「式部卿宮」任官を記す記事が史実よりかなり早い段階で挿入されている点に注目するようになった。したがって計画を一部変更し、本年度は②の研究を優先した。 研究方法としては、式部卿の歴史的な役割や立場の変遷に関する基礎的研究や、『栄花物語』中の「式部卿宮」任官記事および「式部卿宮」呼称が用いられることが多い為平親王・敦康親王・敦明親王についての記事の分析が中心となった。また、先行する他の平安物語文学、特に『源氏物語』の分野で人物呼称・官職呼称の研究が進んでいるため、それらの成果や研究方法を学び、『栄花物語』研究に応用できるよう努めた。 本年度で得られた成果は、中古文学会の2022年度秋季大会において発表した。安和の変以前に為平親王を「式部卿宮」として設定する『栄花物語』の叙述が、単なる事実誤認ではなく一種の伏線として機能しており、「立坊の可能性がありながら立坊できない不遇の皇子」を描く、物語ならではの人物造型の手法として評価できるのではないか、と論じた。また、従来『大鏡』師輔伝・師尹伝の叙述によって補完されてきた『栄花物語』の安和の変記事についても、新たな読み方を提案することができた。 現在は発表内容の論文化を進めており、完成後は学会誌に投稿する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
科研費採択が決定してから本格的に調査に取り組んだ。本来は、上記の①儀礼記事の調査②人物記事の調査の順に研究を進める予定であったが、前年度まで行っていた研究で平安時代の官位昇進問題を考えていたことから、史実と時期が異なる任官記事に関心を持ち、結果的に②の方を先に着手することになった。報告者はこれまで一条朝や後一条朝・後朱雀朝に焦点を当てて『栄花物語』研究に取り組むことが多かったが、今回は村上朝を書いた「月の宴」巻に着目したことで、自身のこれまで積み上げてきた研究とは異なる視点を取り入れられたと考えている。 2022年度中の大半を②の調査・分析にあてたが、既に一定の成果は得られており、10月に学会で報告することができた。現在、発表内容の論文化作業を行っている途中である。また、①の儀礼記事調査も既に着手はしており、成果がまとまれば論文化する予定である。 ただし、当初は本年度中の学会発表および論文投稿を目標としていたが、論文が2023年4月までに完成・投稿できなかったため、「(3)やや遅れている」を選択した。原因としては、今回取り組んだ課題が領域横断的な先行研究の多い分野で、資料の収集と吟味、先行研究の勉強等に当初の想定以上の時間がかかってしまったことが挙げられる。また、投稿を予定していた紀要雑誌の投稿締切が研究報告を行った学会の日程と近く、論文執筆が間に合わなかったため今回は投稿を見送ってしまったのも、進捗が遅れた要因である。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、上半期中に、2022年度の成果である②の人物記事研究をまとめた論文を完成させ、査読誌投稿を目指す。為平親王の人物造型の手法を考察することは、必然的に、安和の変に関する歴史叙述をどのように解釈すべきか、という問題にも直結する。安和の変は未だに解明されていない点が多く、その真相をめぐって諸先行研究内で意見が分かれている。本研究を通して、『栄花物語』独自の安和の変の捉え方や、『栄花物語』の歴史語りの特徴を明らかにしたい。 また①の儀礼記事の調査を進展させ、成果を論文化する予定である。儀礼記事研究の方法については、2022年度の成果と繋がる『栄花物語』「月の宴」巻の為平親王の子の日遊の記事の検討、採択以前から継続して取り組んできた高陽院競馬行幸の、2つの方面からのアプローチを考えている。最終的には論文2本分の内容の成果を挙げることを目指しており、年内に少なくとも1本は完成させ、紀要雑誌等に投稿したいと考えている。現在のところは論文の形式で発表する予定だが、時期的に可能であれば研究会で報告することも視野に入れている。 特に子の日遊記事については、『栄花物語』『大鏡』本文の分析だけでなく、儀式書の調査や記録類との照合も必要であるため、調査にかなり時間がかかる可能性が考えられる。秋頃までを目途に、閲覧予約が必要な資料などを優先的に調査できるよう、態勢を整えながら計画的に取り組んでいきたい。
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