2022 Fiscal Year Annual Research Report
ガウディーヤ学派梵語文献群を主要資料とした南アジア中近代法制史研究
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22J11284
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
谷口 力光 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ヒンドゥー法 / 相続 / ダルマ文献 / 写本 / 家族 / 息子 / インド哲学 / ガウディーヤ学派 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度前半においては、中世以降に作成された後期作品群に見られる〈相続人としての息子の種類分け〉を網羅的に扱うことに注力した。その成果は学会(2回)、学術雑誌(2回)などで発表した。報告者の調査によって、先行研究では十分に検討されてこなかった、i) 息子についての議論と結婚・相続との関わり、ii) 最も重要な息子である「嫡出子」の位置づけの変遷、などの一端を明らかにすることができた。 後半においては、ガウディーヤ学派において最も新しい作品の一つ「法律的紛争の海(に架かる)橋」Vivadarnavasetuにおける相続法を主に検討した。同書からは、本研究にとって示唆的な記述を多く確認できた。その一例としては、一般にサゴートラ親族内婚を禁止すると理解されてきた法文が、同書においては特定の種類の息子への相続禁止として解釈されている事実を指摘できる。 それと並行して、ロンドン、オックスフォードなどで写本・稀覯本調査を行った。この写本調査からは、未出版であるガウディーヤ学派作品群、相続法小論稿(例えば、「嫁姑間の遺産をめぐる論争」Svasrusnusadhanavivada)などの史資料を閲覧・入手することができた。 また稀覯本としては、特に「カリ期(ヒンドゥー教的な最衰退期=現代)における窮迫時のダルマの全て」Kalyapaddharmasarvasvaが注目に値する。同書には、現代では息子として嫡出子と養子のみが認められる(「12種類の息子たち」dvadasaputraなどとして知られる、伝統的な息子論議を排する)という論議を展開しており、本年度前半で行ってきた研究に新たな視点が追加された。 また、アウトリーチ活動としては、南アジア地域における著名な大叙事詩『マハーバーラタ』における登場人物たちの相続法上の関係を考察し、一般講演を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
相続法,特に嫡出子・養子などの区別に関する論説についての調査は好調に進展した. 海外での写本・稀覯本調査からは今後の研究の進展にも大きく寄与するであろう資料を確認することもでき,それも踏まえれば当初の計画以上の進展があったと自己評価できる.
ただし電子的学術テキストの作成は当初の予定よりも若干遅延している.その原因の一つは2022年度前半(つまり研究の初期)に海外での調査を行うことができなかったことにあると考えられる.電子テキストの作成を予定していたガウディーヤ学派作品群のうち未出版である数点について,年度後半になってようやくそれらの写本を閲覧・複写することができたからである.
以上のような自己点検による評価を平均して,(2)おおむね順調に進展している,とした.
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画以上の進展があったと自己分析した相続法についての調査以外について,研究を遂行する上での対応策などを記載する.
電子的学術テキストの作成を予定していたガウディーヤ学派作品群のうち未出版である数点については,2022年度後半にようやく写本を閲覧・複写することができた.ただし,写本調査を行ったBritish Libraryでは,i) 調査予定だったマイクロフィルムが一点紛失していたこと,ii) スキャナーが一時的に故障しており廉価な複写サービス(Imaging service)を依頼することができなかったことなどの事情で,一部の資料については入手までにさらなる時間を要することになった.2023年度のテキスト入力作業は,コピーを入手することのできた作品を中心として進め,他は閲覧可能になった順に作業を進める予定である.
2022年度に行った海外での写本・稀覯本調査からは,未だに検索可能な状態でカタログ化されていない資料がインド国内外に多く保管されていることを強く再認識した.より豊富な史資料を閲覧可能な状態とし,本研究が実りあるものとなるようにするためには,このような資料群をも含めて電子的テキストを作成してゆく必要がある.そのような目的を達するため,予定していた通り,2023年度にはデリー(Indira Gandhi National Centre for the Arts),プネー(Bhandarkar Oriental Research Institute),ムンバイ(Bharatiya Vidya Bhavan Library)などにおいてマイクロフィルム化された写本,稀覯本などの調査を引き続き行う.
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Research Products
(4 results)