2022 Fiscal Year Annual Research Report
法的概念としてのライシテ─その変容と連続についての歴史的分析─
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22J11826
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
小坂 和広 東京大学, 法学政治学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ライシテ / 政教分離 / コンコルダ / フランス法 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度の成果については、主に二点ある。 1つめは、コンコルダ期における政教関係に関する法制度の概要、趣旨の把握、および当時の学説の信教の自由や公認宗教体制に対する理解について整理をしたことである。同時期については、単に法律の規定の内容だけでなく、法や判例に対する分析や当時の法学説が前提としていた宗教理解までも検討している点で、これまでの研究にはない、付加価値を提供しているものと考えている。まだ日本で紹介、検討されていないものも多く。当時の法制度の理解の深化につながりうる成果と考える。 2つめは、政教分離法制定の前後期における判例および学説の整理である。そのなかでも特に、政教分離法(1905年法)に対する学説の理解は様々であるところ、これらの見解はやはり日本では詳しく分析されたものはほとんどないと言って良い。同法をめぐっては単に政教分離という視点だけでなく、国家主権の問題や条約の一方的破棄の可能性など、国際法 上の論点も存在するが、日本ではそもそもこうした論点が存在することすら知られていない。その意味で本研究は、こうした論点の存在に加え、各論者がそうした論点にどのような回答を与えてきたかについて、詳しく整理している。このように政教関係の紀律にとどまらず、国際法上の論点にも手を広げ、同法の問題を検討したことは新たな視角を提示した点で重要な意義を有すると考えられる。こうした点も含め、当時いかに多様な議論がなされたかを知ることはフランスの政教分離を理解する上で重要な意義をもつばかりでなく、20世紀のフランス法の学説を知るうえでも重要な基盤を提供する。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
博士論文の研究テーマ、構想および各章の構成は確定した。 具体的には、期間を19世紀初頭のコンコルダ締結時から現代に設定し、フランスのライシテに関する学説と判例の展開を、四部構成(1.コンコルダ期の制度の略述、2.1905年の政教分離法の誕生直後、3.ライシテの憲法編入前後、4.現代)で分析する。そして、この分析を通じて、フランスの政教関係に関する法制度、および法解釈が現代に至る過程でどのように変容してきたかについて解明することを本論文の課題としている。
現在は上記分類のうち、主に1.および2.の資料収集とその読解、整理に注力している。1.に関してはコンコルダに関する制度の概要、趣旨の把握、および当時の学説の信教の自由や公認宗教体制に対する理解についての整理はほぼ終えている。判例については現在関係する資料を収集しており、どのようにまとめるかを思案している。 2.について、政教分離体制に関する当時の学説は様々な立場が入り乱れ百花繚乱の状態にある。現在は、それら学説を収集しつつ、構成をまとめている。また、判例については政教分離に関するものを収集している最中であり、引き続きその収集と分析および整理を続けていく予定である。 判例も学説も、当初の想定をはるかに上回る量があり、分析に時間がかかっている。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、学説および判例の収集、分析そして整理をつづけていく。 これまではコンコルダ期や1905年法前後の時期を中心的に扱ってきたが、今後は1950年前後の憲法改正や、スカーフ禁止法関連の法制度及び判例等を主要な研究対象となると考えられる。つまり、。20世紀初頭から21世紀におけるライシテの法概念の変容と、それを踏まえて現代においてライシテがどのように把捉されているかの理解を法的観点から分析することが分析の中心になると考えられる。 この時期については、憲法院の判例が重要性を帯びてくるため、これまでのコンセイユ・デタ中心の姿勢から方針を変え、憲法院の判例にも手を伸ばし、両者の判例の分析も並行的に進めていきたい。 学説については、20世紀初頭ほど、華々しい議論があるわけではないと思われるが、やはり現代のフランス法学説が政教関係の紀律についてどのように考えているかは、日本法の分析にも重要な示唆を与える可能性が高いと考えられる。そのため、政教分離関係の判例評釈や、信教の自由に関する論文を丁寧に読解していくことで、フランス法学説の動向を理解し、まとめていく予定である。
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