2022 Fiscal Year Annual Research Report
寺院と町人の経営にみる近世門前町の都市空間についての研究
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22J13920
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 駿介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 門前町 / 都市空間 / 建築 / 経営 / 被官 / 御師 / 寺社 / 旅籠 |
Outline of Annual Research Achievements |
2022年度は、善光寺と伊勢山田の2つの門前町について、土地経営のしくみを検討した。(1)善光寺門前町では、領主である2つの寺院がそれぞれに町場の土地を領有し、近世初頭から後期にかけてその分布が変化する。領有地の分布は、善光寺に奉仕する被官役と宿場で働く傳馬役という2種の役に関係することが分かった。なかでも江戸時代のはじめには、市が開かれるような重要な土地に被官役が多く分布するように、近世初頭まで寺院は被官役をもつ町人と経済的に密接な関係をもつことが分かった。(2)伊勢神宮外宮の門前町である伊勢山田門前町では、代表的な社会構成員である御師が多くの土地を所有する。その一方で、寺院が所有する寺屋敷も多く存在する。伊勢山田の寺院には支配人が存在し、彼等は有力な御師や地域共同体などであることが多く、寺院が納める年貢の余剰を受け取っていた。また、住食は支配人である御師の子弟であることが確認できる他、住職の任命権を支配人が持つことも確認できた。そのため、寺屋敷は血縁関係を用いた御師による間接的な土地経営がされていたと分かった。 また今年度は善光寺町と伊勢山田町に加え、第3の事例として成田門前町を取り上げ、現地での資料調査を行なった。成田山新勝寺は江戸時代の半ばに台頭した寺院ということから、その門前町も江戸時代に新たに形成された門前町であることが知られている。新勝寺所蔵の借地・借家証文を分析することで、成田門前町の展開過程についておおよその見通しを経た。具体的には、成田門前町の門前の地域では、新勝寺が所有する土地を村人が借地し、旅籠を営んでいた。こうした旅籠は新勝寺へ参詣に来る成田講の宿に優先的になっており、新勝寺と門前の旅籠は経済的に密接な関係をもっていたと分かった。この直接的な土地所有者としての新勝寺は、善光寺や伊勢山田の寺院とは異なる近世的なしくみを持つ門前町を形成したと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は予定をしていた善光寺門前町と伊勢山田門前町の史料調査を完了し、両町における都市空間の分析の第一段階が完了した。善光寺町に関しては、領主による土地所有である「領有(領知)」に着目し、検地帳から近世初頭と近世後期の都市空間を復原することで、領主寺院とその被官や宿場町人の関係を明らかにした。伊勢山田については、町場に多数存在する寺屋敷について、御師と寺院が支配関係にあることから、御師による間接的な土地経営であることを明らかにした。どちらも学術雑誌『日本建築学会計画系論文集』に掲載されている。両町については予定していた史料調査をほぼ完了したが、当初予定していた善光寺門前町全域の復原とその分析は完了していない。 また、研究を進める上で、成田門前町に関する分析が新たに必要となった。そのため成田門前町の史料群を調査し、写真撮影とその翻刻作業を行った。基調となる史料について調査はほぼ完了し、2023年度4月の建築史学会大会での報告が決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は引き続き、善光寺門前町と伊勢山田門前町に関する分析を進めると共に、昨年調査した成田門前町で収集した資料の分析を始める。 善光寺町については、近世後期の検地帳から町全域の空間復原を行なう。そして、絵図に描かれる町屋と町並みの建築類型を分析することで、寺院による町並みの統制とその背後にある論理を明らかにする。また、同検地帳にある町割りから、近世初頭に行なわれた善光寺門前町の都市計画について明らかにする。 伊勢山田門前町については、寺院の支配人のしくみの変遷について明らかにする。また、寺屋敷の建築的な特徴についても分析する。 成田門前町については、取得した史料から、(1)成田門前町での新勝寺の土地所有、(2)町場の展開過程、(3)参詣と旅籠経営のしくみについて分析する。これによって、善光寺町や伊勢山田といった中世的な様相を残す門前町と比較して、近世的な門前町の経営と都市空間の展開についての関係解明を期待できる。
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Research Products
(3 results)