2022 Fiscal Year Annual Research Report
ラマンスペクトルとマルチオミクスを用いた細胞表現型の多様性の同定と理解
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22J14026
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
香取 真知子 東京大学, 情報理工学系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ラマンスペクトル / マルチオミクス / 多様性 |
Outline of Annual Research Achievements |
細胞の遺伝子発現は確率的に変動しており細胞の表現型は多様である。同種の集団の中においてもストレス反応や成長速度の異なる亜集団が存在することが知られている。このような多様性は同一遺伝子集団においても見られることから、histone modificationやchromatin organizationといったepigenomeのばらつきや、それらと相互的な関係にあるtranscriptomeのばらつきに起因することが示唆されてきている。表現型の多様性が抗がん剤治療の妨げだけではなく、細胞のがん化の過程とも密接に関連していると考えられており、背後にある生成機構の解明が求められている。 近年の計測技術の発展に伴い、細胞の多様性を多側面から記述できるようになってきているが、オミクス計測技術は侵襲的であり、同一細胞からの複数のオミクス情報の取得や、経時的な取得は未だ困難である。そこで本研究では、包括的な分子構造を反映する非侵襲なラマンスペクトルに着目するし、ラマンスペクトルを介したマルチオミクス情報の統合技術の開発に取り組む。近年、ラマンスペクトルにより細胞の表現型分類やtranscriptome推定が可能なことが示唆されているが、マルチオミクスと繋げていくことにより、従来とは異なる解像度での多様性空間の構築を目指す。具体的には、包括的な分子構造を反映するラマンスペクトルから複数のオミクス情報に共通な内在空間を直接抽出することで、定量的かつ多角的な細胞表現型の比較を可能とする新たな多様性の定義空間を作成する。さらに、構築された空間から得られるデータ解析・数理解析に基づく知見を生物学的知見と組み合わせることで多様性の生成機構の解明を目指す。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、シグナルが弱く、大きなノイズを含むというラマン分光技術共通の課題に着目し、オミクス情報を反映するような低次元ラマンスペクトルを適切に抽出する方法の開発を行なった。特に、ラマンスペクトルデータセットにおいてよく生じる小標本高次元性(サンプル数が特徴量数よりも小さいという性質)に着目し、高次元統計学に基づく次元圧縮手法を開発した。この手法により、サンプル数と特徴量数の大小関係に左右されることなく、ラマンスペクトルからシグナル依存の低次元構造を取得することが可能になっている。手法の有用性は、これまでの研究で主にターゲットとしてきた大腸菌等の単細胞に限らず、動物細胞においても確認されており、ラマンスペクトルによる細胞の記述が可能な対象や研究分野が今後広がっていくことが期待される。 開発した手法は研究推進において核となるものであり、順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでclustering精度という観点で開発した次元圧縮手法の評価を行ってきたが、本年度は評価向上の背後にある生物学的な意味の解釈に向けて、ラマンスペクトルの低次元構造とマルチオミクス情報の関係性に着目していく。特に、解析に利用している細胞の表現型の分散の大きさや、細胞種の違いの影響を踏まえた評価を行うことで、ラマンスペクトルによる多様性表現空間の記述力の評価を行っていく。また、得られた空間を張る軸に関する解析を行うことで、多様性の定義空間を構築する生物学的な要素の考察する。
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