2022 Fiscal Year Annual Research Report
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22J14070
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 良聖 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 領海制度 / 漁業紛争 / 日中関係 / 中国近代史 / 東アジア海域史 / 海域秩序 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、近代中国による領海制度を活用した漁業紛争への対処を中心に考察を進めた。具体的には、(1)1910~20年代に渤海・黄海海域で頻発した漁業紛争の経過と、(2)漁業紛争に対する日本・中国双方の対処、(3)南京国民政府による領海制度を利用した漁業保護政策を分析した。 (1)については、「20世紀初頭の渤海・黄海海域における領海制度と漁業紛争」という題目で『史学雑誌』第131編第11号(2022年11月)に掲載された。この論文により、近代東アジア海域史の通史的理解に一定の修正を施すことが出来たと考えている。(2)については、「1920年代における漁場監視と日中関係――竜口・海州のマダイ漁場を事例として」という題目で『領海・漁業・外交』(晃洋書房、2023年3月)に収録された。この論文では、1920年代の東アジアにおける各国の中央政府と海域秩序の距離感について考察を行った。(3)については、2022年11月に東京大学本郷キャンパスで開催された史学会大会東洋史部会にて、「南京国民政府の漁業保護政策と日中関係」と題した口頭報告を行った。報告の成果は、現在雑誌論文として投稿中である。以上が本年度の主な研究実績となる。 以上の研究を通して、20世紀前半の東アジア海域における秩序変動の経過がおおむね明らかとなった。特に1920年代半ばに入り、中国・日本の双方にとって漁業問題が内政・外政にまたがる問題として浮上してきたという点が明らかになったのは重要であると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
新型コロナウイルス流行の影響により海外での史料調査は行えなかったものの、オンラインデータベースの活用により考察に必要な史料を集めることは一定程度できた。また、研究報告については、対面・オンラインの双方を活用し、国内外の学会ないしフォーラムでの発表が行えた。報告成果については、一本論文の形で公表されたほか、もう一本雑誌へ投稿中であることから、おおむね順調に形にすることができていると考えられる。一方、近代中国による領海制度を利用した漁業紛争への対処という課題については、史料収集の中で北京政府の海洋領有政策の試みについて詳細な分析を行うことができる可能性が生じている。そのため当初の計画を多少修正する必要はあるが、全体として見れば順調な推移を見せていると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
以上の成果から得られた課題を含め、最終年度である2023年度は、(1)張謇の海洋政策論と、(2)北京政府による海洋領有政策の試みについて考察を進める。(1)については、19世紀後半から20世紀初頭にかけて生じた、翻訳行為を通した国際海洋法やシー・パワー理論の流入というより広い文脈と関連付けるために、明治期日本で作成された翻訳書を読み込むことを課題とする。(2)については、北京政府の各中央官庁が残した行政文書を分析し、中央政府の行政機関が外政と内政とを問わず参与して海洋領有の実現を目指した過程を明らかにすることを課題とする。
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