2023 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22KJ0934
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
佐藤 良聖 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2024-03-31
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Keywords | 歴史学 / 中国史 / 領海 / 漁業紛争 / 日中関係 / 東アジア / 海域秩序 / 海洋史 |
Outline of Annual Research Achievements |
最終年度である令和五年度は、前年度の課題を引き続き検討した。具体的には、(1)張謇の海洋政策論と、(2)政策過程から見た北京政府による領海制定の試みについて論文の作成を進めた。加えて、(3)南京国民政府実業部による日本漁船対策についても、史料の分析を通して考察を試みた。研究成果としては、前年度に学会報告を行った南京国民政府の漁業保護政策に関する論文が『歴史学研究』に掲載されたほか、論文1本が査読論文として掲載の予定である。また、1880年代の日朝・対馬関係を漁業から考察した論文が、『葛藤と模索の明治』に収録された。加えて、論文1本が査読中である。 本研究は次のようなことを明らかにしたと言えよう。(1)近代中国は、20世紀初頭に相次いで流入してきた領海や海権といった単語たちを、漁業を結節点としながら柔軟に組み合わせ、海洋を領有するという行為に対する独自の認識を形成した。(2)北京政府は領海制定へ向けた議論を本格的に開始し、海洋領有の構想を練った。しかし、政治的状況や領海範囲をめぐる国際的通説と自らの利害の衝突といった様々な要因により領海制定を果たせなかった。(3)北京政府が作り出した海洋領有構想は、後続の政体である南京国民政府がによって達成された。しかし漁業保護政策の諸相から見られるように、海洋政策に関連する中央官庁の多くは行政資源の不足に悩まされており、また官庁間の水平的連携を欠いた。 これらの知見は、中国が近代的な領域主権国家として海を領有し統治しようと試みる過程が、漁業技術の機械化を背景とする日本漁船の出漁範囲の拡大や、その結果引き起こされた日中間の漁業紛争の展開と密接に関連していることを示している。成果のうち未公開のものは、順次学会報告や論文の形で公表する予定である。
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