2022 Fiscal Year Annual Research Report
S行列の解析的及び幾何学的構造から迫る閾近傍エキゾチックハドロンの解明
Project/Area Number |
22J15277
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
山田 廉仁 東京大学, 理学系研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
|
Keywords | エキゾチックハドロン / 散乱理論 / 準定常状態 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の実験によるハドロンスペクトルの観測で、従来のクオークの二或いは三粒子的な描像で説明できないエキゾチックハドロンの候補が閾近傍で多数見つかっている。また、有効模型や格子QCDの理論的なアプローチの発展により理論で計算される共鳴エネルギーと実際の観測スペクトルを繋ぐインターフェースの重要性がますます高まっている。 本課題は散乱行列のリーマン面の解析的及び幾何学的な構造に着目することによって、観測されるハドロンスペクトルをMittag-Leffler展開(ML展開)という離散的な分散関係の形で定式化し、さらにその展開を基に共鳴状態のエネルギーを特定する模型依存性のない枠組みの構築を目標としている。 当該年度の具体的な研究成果は以下のとおりである。 1. 当該年度開始時点で既に2-channel系(2つの結合channelをもつ系)の二体散乱行列のML展開は定式化されていたが、現実的な問題に応用するにはその枠組みを更に3-channel以上に拡張する必要があった。その一方で、3-channel系の二体散乱行列は、球面である2-channel系の場合とは本質的に異なっていてトーラスであるために定式化されていなかった。我々は3-channel系のML展開をする上で必須となるuniformization変数と呼ばれる変数の具体的な表式が複素楕円函数により与えられることを見出した。そして、その変数を用いることで3-channel系のML展開を定式化することに成功した。 2. ML展開の結果として、複素エネルギーの虚部が正である極が非弾性散乱の閾近傍に位置する場合に、その閾上に増幅されたカスプの形をした構造が現れることを指摘した。また、時間依存するシュレディンガー方程式を基に準定常状態の生存確率の時間依存性を調べ、そのような極をもつ系の励起状態が指数的でない振る舞いで減衰することを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の令和4年度の研究計画に盛り込まれた内容の大部分を達成したため、(2)の評価とした。特に、二体2-channel系のMittag-Leffler展開を3-channel系に拡張することに関しては、トーラスのもつ二重周期条件を適切に取り込むことが最大の課題であったが、ワイエルシュトラスの楕円関数の導入によって解決することができた。3-channel系への拡張によって、弾性散乱の閾に加えて2つの非弾性散乱の閾を考慮することができるようになり、応用の幅が格段に広がった。また、非弾性散乱閾上のカスプの生存確率の時間発展の議論等、当初の想定を超えた新しい展開も見られた。一方で、三体終状態の効果をML展開の枠組みに取り入れることに関しては、当初の計画と比較して若干進捗が遅れていて、今後重点的に取り組む必要がある。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究成果を基に、Mittag-Leffler展開を実際のハドロンスペクトルに適切に適用できる枠組みの構築に尽力する。また、準定常状態の生存確率に関する議論を通して閾近傍に位置する共鳴状態のより適切な解釈を探求する。具体的には以下の課題を設定し、研究活動を遂行する予定である。 1. 実際のスペクトルでは多体のphase spaceによる制約や、Triangle-Singularity等の三体にて初めて現れる極の効果を考慮する必要がある。近似的に、或いは部分的に模型に依存しない形でML展開のフレームワークを三体散乱に拡張し、$\Xi(1620)$やペンタクオーク$P_c$等の観測データを解析する。 2. 本年度の研究において非弾性散乱閾上のカスプの生存確率の時間発展は指数的でない振る舞いで減衰することを示したが、従来のnaiveな解釈ではこの極は時間発展に伴い増大するような解に対応する。生存確率の時間発展と従来の解釈の対応を明らかにし、閾近傍に位置する共鳴状態のより適切な解釈を与える。
|