2022 Fiscal Year Annual Research Report
帝国日本における「植民地台湾・朝鮮書道史」の成立とその展開―自主・協力・抵抗
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22J20502
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
柯 輝煌 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 呉世昌 / 箕子朝鮮 / 漢字 / ナショナリズム / 大韓帝国 / 華夷思想 / 書芸 / 朝鮮美術展覧会 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究実績の内容として、大韓帝国期における文字とナショナリズムの問題に焦点を当てた。大韓帝国の成立により、国家像に相応しい文字とは何か。また、どのような議論や論争が行われたのかを明らかにした。 この問いに対して、書家でありながら政治家でもあり、民族運動など多方面で活躍した呉世昌〔1864-1953〕を研究対象とした。発表者はこれまで、呉世昌による書物である『書之鯖』(1901年)に現れる歴史観が、大韓帝国の成立による「中華」の継承意識と密接に関わることを検証してきた。さらに、殷商の青銅器の金文や甲骨文を取り入れた彼の書の作品は、「箕子崇拝」という中華文明の継承者としての意識と朝鮮民族の自意識(近代的なナショナリズム)が共存していたことを指摘した。 これらの成果を踏まえたうえで、さらに視野を広げ、大韓帝国期に起きた議論を収集し、ハングルと漢字それぞれの優劣性についての言論を観察する。具体的には、『万歳報』、『大韓民報』、『皇城新聞』、『大東学会月報』などの新聞を観察の対象とし、文字と国家像の関係に対する議論を考察した。 研究の重要性として、これまでの先行研究は、大韓帝国と文字ナショナリズムを考える際に、ハングルは容易に朝鮮民族の固有性や属性に結び付けられ、漢字との二元対立の関係として扱われる。しかし、儒教の価値観に深く影響される呉世昌にとって、書き言葉としての漢字は、単純に「他者」の文字ではなかったのである。 特に重要なのは、彼にとって「中国」は不変な存在ではないからという点である。特に近代朝鮮において、漢字とナショナリズムの問題を考えるのに、明王朝から「正統中華」を継承する大韓帝国が成立した際に、明・清交替からもたらされた影響も考慮せねばならない。そして、華夷思想において「正統中華」を継承する資格として、箕子が重要な役割を果たしているのである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
この区分を選んだ理由は以下となる。これまでの研究は、書家呉世昌にとって、漢字を表現する書道という芸術表現はどの意味を持つのかを追究してきた。中心的な課題としては大韓帝国の成立とともに、漢字の位置付けや使用はどのように、華夷思想とナショナリズムの変遷と絡んでくるかを検証する。 一方、大韓帝国が成立した以後、漢字の位置付けや使用の問題を考えるのに、もう一つ重要なキーワードはアジア主義である。アジア主義の言論において東洋三国(清、朝鮮、日本)を連帯するため、共通の漢字は重要視されている。このような考え方は、儒教を重視し、漢字、漢文を復興する『大東学会月報』にもみられる。今年度の発表(「大韓帝国期における文字と国家像の問題について―呉世昌を中心に」、口頭発表、2022年12月9日。)では、佐野市郷土博物館の須永文庫に所蔵されている呉世昌の書を通じて、呉世昌と玄洋社のメンバーである須永元〔1868-1942〕との交友関係を着目し、漢字とアジア主義の関係性にも少し触れた。しかし、具体的な作品の調査、撮影、またフィールドワークはまだ行っていない。そのため、予想より研究の進捗状況はやや遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の推進方策は、主に以下のような三つの方向に沿って進む。 1、大韓帝国成立以後、漢字とハングルについての論争(地位の変化)は檀君と箕子の地位の変化と密接に関わってくると思っている。次の方向性として、大韓帝国の成立から韓国併合への過程で、檀君と箕子をめぐって、どのような論争や鬩ぎあいがあったのかを解明していきたい。 2、1910年韓国併合の翌年、1911年辛亥革命が起き、清王朝は滅ぼされ、1912年に中華民国が成立した。過去の研究により、呉世昌にとって、「中国」の明王朝と清王朝は異なる存在という意義であった。そう考えると、中華民国の成立により、呉世昌の「中華観」、または「華夷思想」にはどのような変遷があったのか。 3、大韓帝国期に限らず、植民地期の呉世昌に焦点を当て、漢字を軸として展開される「朝鮮書道史」をさらに究明していくことである。朝鮮総督府が植民地の歴史と文化にどのように介入し、それに対して呉世昌は何を感じ、どのように対応したのか、「ナショナリズム/民族文化」の成立と展開は政治状況といかに連関するかを念頭に置きつつ明らかにしていきたい。
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Research Products
(2 results)