2022 Fiscal Year Annual Research Report
The effect of low inflation rate on firms' behaviors and efficiency of the monetary policy
Project/Area Number |
22J20918
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
野村 果央 東京大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | メニューコストモデル / 合理的不注意 / トレンドインフレ率 / 貨幣の非中立性 / 金融政策ショック |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、昨今の先進諸国の喫緊の課題であるインフレ率の制御と安定化のために、インフレ率の値が個々の企業の行動に与える影響と、その結果として経済全体の動学を決定づけるメカニズムの理論及び実証的な考察を行い、インフレ率と金融政策の効率性との間にある関係を分析することを目的としている。具体的には、企業間の異質性と情報制約など実質の硬直性を考慮したメニューコストモデルを構築し、(1)企業間の異質性やフリクションが個別企業の意思決定・その分布に与える影響と、(2)均衡インフレ率とこれらの変数との関係性を求め、(3)この企業行動を通じた経路が金融政策の有効性に与える効果を分析する。本年度は、既存のモデルをもとに、主に理論分析と精緻な数値計算の研究を行った。具体的には、企業間の戦略的補完性と情報制約を含んだ企業の意思決定を導出するために、平均場ゲームを用いて最適化問題を記述し、その数値解の導出を試みた。企業の意思決定の際に用いる情報集合に制約があること、及び個々の企業の意思決定行動がその状態変数に依存して異質性を持つことは、従来のマクロ経済学で用いられてきた理論モデルでは捨象されてきたものの、実証研究結果と整合的な要素である。こうした拡張によって、従来のモデルではとらえられない経済事象を説明するための新たなメカニズムを求めることが出来た。特に、均衡のインフレ率が企業の価格設定とその分布を通じて金融政策ショックの波及経路に影響を及ぼすことを示した。これは金融政策運営を議論する上でも重要な結果であり、実務上でも意義も持つと考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、研究計画の通りに既存のモデルをもとにしたさらなる理論分析と、精緻な数値計算に関する研究を行った。具体的には、企業の最適化問題を、企業間の戦略的補完性と、マクロ変数の不確実性も含んだものへ拡張するためにコモンノイズのある平均場ゲームとして定式化を試みた。その前段階として、特別研究員奨励費で購入した平均場ゲームに関する書籍を用いてモデルの数学的理解を深めた。研究に必要な応用数学の知識を習得後は経済理論モデルへの応用を行った。 また、マクロ変数へのショックが存在するような均衡を計算するための新たな数値計算手法を習得した。Continuous time modelにおけるマクロ変数へのショックが存在するような均衡を数値的に解析する方法は現状あまり文献の蓄積が進んでいないものの、その中で近年発表されたワーキングペーパー(Fernandez-Villaverde et.al, 2022等)にて提示された方法および、その背景にある機械学習の手法を学習した。 構築した理論モデルを用いた大規模なシミュレーションや、企業のマイクロデータを用いた実証分析は今年度以降に持ち越しとなったため、それらに付随するリサーチアシスタントへの謝金、統計ソフトや数値計算用の高性能なラップトップないしワークステーションの購入は今年度以降に持ち越しとなったが、研究計画に記していた研究の進捗に関して、当初の目標であった理論モデルの構築・拡張と、モデルを解くために用いる数値計算の手法の習得については今のところ大きな遅れはなく、概ね順調であると判断できる。 また、本年度末の2月には、京都にて行われた「若手経済学者のためのマクロ経済学コンファレンス」にて、これまでの研究の成果を発表した。普段交流する機会のない関西の研究者の方々から多くの有益なコメントを頂き、研究のブラッシュアップを行うことができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後はモデルを用いたシミュレーションを行い定量的な政策分析と、Billion Prices Projectや小売物価統計など企業行動に関するデータを用いた構造推計など実証分析に注力する予定である。今年度は、昨年度から引き続き理論モデルの構築と数値解析を行う予定である。また、より複雑なモデルへの拡張後にモデルのシミュレーションを行うことで金融政策の定量的な分析を本格化させる。さらに、価格のマイクロデータを利用し、統計ソフトを用いてモデルのパラメータの推定を行う。こうした作業において、多量のデータを扱うことや、大規模なファイル群からなるソースコードを作成・利用することが予想されるため、その運用や頑健性を検証するためにリサーチアシスタント(RA)を雇用し、一部の作業を委託する。また、昨年度から引き続いてこれまでに得られた研究成果を国内外の学会にて発表し、国内外の一流の研究者と対面での交流を図る。日本経済学会やComputing in Economics and Finance等の国内外の学会へ参加を検討しているので、渡航費等の経費を見込んでいる。さらに、英文校正を経た論文をJournal of Monetary Economics等の国際学術誌に投稿する。 来年度は、第一に投稿後の査読レポートへの対応を行う予定である。必要に応じてモデルの帰結に関してその妥当性や政策含意について、足もとのコロナ不況後のインフレと企業行動に関するマイクロデータを拡充したうえでRAを雇ったうえで実証的に検証する。また、日本銀行の短観や、アメリカ、ニュージーランド等における企業の期待形成に関するサーベイデータを利用した実証研究により理論モデルにおける実質の硬直性についての妥当性について検証する。得られた研究成果は国際学会にて発表し、査読者に改訂を求められればより精緻な議論を含んだ論文として再投稿する。
|