2023 Fiscal Year Research-status Report
メタゲノム情報と合成生物学を統合した次世代バクテリオファージ療法の基盤技術確立
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22KJ1099
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
田村 あずみ 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | バクテリオファージ / 合成 / 細菌感染症 / 大腸菌O157 / 食中毒 / 検出 |
Outline of Annual Research Achievements |
バクテリオファージ(ファージ)とは細菌に特異的に感染するウイルスである。薬剤耐性菌の出現と蔓延に伴い、ファージを利用した細菌感染症(ファージ療法)が期待されており、世界的に研究開発や治療が進められている。また、ファージの溶菌効果向上や遺伝子機能解析の目的で、合成ファージが着目されている。しかし、ファージの合成技術は確立しておらず、比較的汎用性の高い方法であっても扱えるファージのゲノムサイズに制限があった(約50 kb以下)。そこで、簡便かつゲノムサイズの大きいファージにも適用可能なファージ合成系の確立に取り組んだ。 安価かつ時間・手間のかからないファージ合成方法としてギブソン・アセンブリによるin vitro合成系を利用し、DNA断片の精製方法やアセンブリ方法について条件検討を行うことで、大腸菌T7ファージ(約40 kb)の合成効率を10^4倍向上させた。また、ゲノムサイズが約90 kbある新規大腸菌ファージの遺伝子改変も成功した。 この技術を応用して、腸管出血性大腸菌O157に感染するファージ(約70 kb)に検出タグを搭載し、大腸菌O157の検出を行った。20種類の合成ファージを用いた比較実験では、尾部繊維や溶菌酵素のC末端側にタグを付加したファージで検出感度が高くなることが示された。さらに、合成したファージは、異なる遺伝的クレードに属する大腸菌O157臨床分離株53株全てを検出することができ、非O157志賀毒素産生大腸菌の臨床分離株35株と明確に区別することができた。このファージが大腸菌O157に対して高い特異性を持つことが確認され、O157抗原を受容体として使用していることも実験的に示された(Tamura A et al., Communications Biology, in press)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ファージの合成効率を向上させ、ゲノムサイズが約90 kbある新規大腸菌ファージの遺伝子改変に成功した。また、ファージ合成技術の応用として、腸管出血性大腸菌O157に感染するファージに検出タグを搭載し、感度および特異性の高い大腸菌O157の検出系を開発した。さらに、一部の大腸菌O157臨床分離株に対してファージ感染効率・検出感度がやや低かったことから、細菌の獲得免疫機構(ファージ防御システム)の関与を予測し、実験的に確認した。現在、大腸菌O157由来のファージ防御システムについて、防御メカニズム等の研究を進めている。
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Strategy for Future Research Activity |
今後もファージ合成技術を利用し、大腸菌O157に関連した研究を進めていく。大腸菌O157のファージ防御システムに対抗できるO157ファージの創出を目的とし、ファージ防御システムの抑制因子の探索およびエスケープ変異ファージの取得を進める。これらが奏功した際には、大腸菌O157臨床分離株の検出を再度行い、検出感度が向上したかを検証する。
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