2022 Fiscal Year Annual Research Report
ルイ・アルチュセールにおける「哲学」の問題:「イデオロギー」との関係を基点に
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22J22075
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
緒方 乃亜 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | アルチュセール / 『マルクスのために』 / 『資本論を読む』 / マルクス主義哲学 / 史的唯物論 / 歴史 / 理論 / 移行 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度は、1950年代以来アルチュセールの思考のうちに一貫して存在する「歴史」の問題系との関連において、60年代前半の「マルクス主義哲学」=「理論的実践の〈理論〉」をめぐる探究の実践的意義を明らかにすることを試みた。 研究員は第一に、50年代のアルチュセールの思考を辿ることで、「認識論的切断」の問題系がいかなる実践的モチーフの中で練り上げられたのかを検討した。特に55-56年の「歴史哲学の諸問題」講義を読解することで、従来の歴史哲学に対する史的唯物論の革新性が、超歴史的規範によってではなく「歴史自身によって歴史を認識する」ことに認められていることを確認した。このように歴史が自己自身に関係するための有機的媒介として「理論」を捉える視座は、注意深く読んでみると、60年代前半の著作のうちにも通底していることが明らかになった。この観点から『マルクスのために』におけるレーニン論の意義を理解することができた(史的唯物論が対象とする「構造」とは、超歴史的本質ではなく、現実の特異な歴史的状況の理論的把握を可能にする「不変項」=「状況の構造」である)。 さらに研究員は、『資本論を読む』(特にアルチュセールの二論文とバリバールの論文)を読解し、生産様式間の「移行」をめぐる議論を、60年代前半のアルチュセールの試みの理論的帰結として位置づけた。アルチュセールにとって、マルクスがもたらした「理論」(資本主義的生産様式の概念)と現実の歴史的状況の齟齬をイデオロギー的に解消してしまう「経験主義」に抗して、理論と実践の関係を並行論的に理解する「哲学」こそが、そのような現実の捕まえがたさをひるがえって「理論」自身の空虚として把握可能にするものであった。すなわちこの「哲学」こそが、人間が理論的かつ実践的に「自らの時代を飛び越す」ことを禁じるイデオロギーに抗して、「移行の諸形式の理論」の発展可能性を開くものであったのだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
テクストの精読により、「マルクス主義哲学」をめぐる60年代前半のアルチュセールの探究に「歴史」という観点から新たな光を投げかけることができた。この成果は、アルチュセールの生涯にわたる理論的活動を「哲学」の政治性という観点から再検討する研究計画の全体にとって非常に重要な意義を持つものである。
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Strategy for Future Research Activity |
初年度の研究を進める中で研究員は、60年代前半に定式化される理論的「切断」の問題が、「共産主義」の政治的実践の固有性の問題と結びつくものであることに気づくことができた。この視座は、「理論と実践の統一」の問題が前景化する60年代後半以降のアルチュセールの思考を理解する上での重要な手がかりとなるだろう。第二年度は、初年度の成果を土台にしつつ、「理論的実践の〈理論〉」という「マルクス主義哲学」の定義を「理論における政治」へと変更した「自己批判」の内実を、共産主義運動をめぐるアルチュセールの実践的立場の変化とともに理解することを試みたい。
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