2022 Fiscal Year Annual Research Report
教育における「国家―市民―道徳」 -高坂正顕の思想に着目して-
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22J22392
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中村 優 東京大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 京都学派 / 高坂正顕 / 広報外交 / USIS / カント / カント平和論 / 世界市民 |
Outline of Annual Research Achievements |
採用初年度である2022年度は、博士課程における研究課題の達成に向け研究を遂行するなかで、大きく次の2つの小課題に取り組んだ。 1)高坂正顕とアメリカ反共戦略への参与 本課題の目的は、1950年代の京都大学にて反左翼陣営の形成に寄与した高坂が、その過程でアメリカ政府の広報外交機関であるUSIS における活動をつうじてアメリカ反共戦略に参与していたことについてあきらかにすることである。高坂の参与についての史料収集を行うため、2022年10月にアメリカ国立公文書館を訪問し調査を行った。調査により邦訳済史料の原本とUSISの活動における高坂の参与をあきらかにするために重要な未邦訳史料を入手した。上記の研究内容については、教育史学会第66回大会で発表したほか、学会誌への投稿も試みた。 2)高坂正顕のカント解釈における「世界公民」 本課題の目的は、高坂が戦前から戦後にまたがり取り組んだカント研究について、カント解釈の異同のうち戦後になり新たに世界公民(世界市民)概念への着目が生まれたことの意義をあきらかにすることにある。カント原典に遡りながら高坂の世界公民解釈についてあきらかにした昨年度までの研究を踏まえ、「世界公民」への着目の意義を問うことによって内容の見直しをはかった。世界公民への着目が生まれたことにより、戦前の高坂の思想を代表する世界史の哲学との断絶を意味するのではないか、と結論づけた。上記の研究内容については、教育哲学会第65回大会で発表したほか、学会誌への投稿も試みた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1年目にあたる本年度は、国外への調査、文献収集を行うと同時に、博士課程における研究課題の達成に向けて学会発表、論文投稿を順調に進めることができた。論文掲載にはいたらなかったが、査読を通じて問題点は明確になっており、今後の見通しが立っている。 小課題1)についてはUSISの活動の一環として問題を設定したことにより、主張が明確化されなかった点に課題があった。高坂研究において反共戦略参与に注目することの独自性に焦点をおいて改善を試みる。 小課題2)については世界公民への着目が生まれたことが世界史の哲学との断絶となっていることについての論証が希薄であった。さらに、高坂思想の転換に世界公民への着目があったことを示すことはできたが、なぜ世界公民に着目することになったのか、その意義はどのようなものであったのかについては十分に検討ができなかった。戦後に新たな世界観を模索するなかでカント平和論の世界市民の精神性を重視しようとしたのではないかという視点を踏まえて再度検討を図り、改善を試みる。
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Strategy for Future Research Activity |
採用2年度目である2023年度は、博士論文の執筆に向けて小課題を新たに設けるとともに、2022年度に取り組んだ小課題について学会誌への論文掲載に向けた改善を試みる。 現時点の残された課題としては、高坂が戦前から戦後にかけて「世界」という概念をどのようにとらえてきたのかをあきらかにすることがあげられる。高坂の民族をめぐる思想においては「世界」と「民族」の相互作用が重視されていた。「民族」については、世界公民への着目や、すでに論文化されている戦前の民族をめぐる思想についての検討が行われている。一方で「世界」については今後の課題となっている。 2024年度以降は、博士論文の執筆を具体的に進めるため、先行研究の整理や小課題の統合を行う。
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