2023 Fiscal Year Research-status Report
証言の信頼が適切であるための条件とは何か―文脈依存性の観点から―
Project/Area Number |
22KJ1118
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
松本 将平 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 認識的正当化 / 社会規範 / 主張 / 会話的推意 / ほのめかし |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、他者の証言を信じることはどのような条件において認識的に正当化されるのかを明確化することにある。私は特に、あることが主張されたように思われた場合には、たとえその主張が信用に値するということを支持する証拠を持たなくても我々はそれを信じることへある程度の正当化を持つとする立場である、いわゆる反還元主義という立場の擁護可能性に注目してきた。特に、証言を介して獲得される信念は必然的に正当化されていると主張する「強い反還元主義」と呼ばれる立場を、主張に関する社会規範の存在に訴えて擁護しようとするMona Simionの議論戦略の問題を明確化した。また、Peter Grahamが提示する、我々の認知メカニズムの機能という観点から認識的正当化を説明する機能主義という立場を足がかりにして、Simionが強調する社会規範のような要因が認識的正当化にどのように関わるのかの検討を行った。その成果を、2023年7月7日・8日にソウルの延世大学にて開催されたVeritas Epistemology Workshopにて発表した。その 後、9月15日から現在に至るまでカリフォルニアに滞在し、カリフォルニア大学リバーサイド校にてPeter Grahamのもと、証言の認識論に関する研究活動を行ってきた。彼との議論や彼のゼミへの参加を通して、現代認識論の中心的トピックである認識的正当化をめぐる論争をどう理解し整理すべきかに関する手がかりが得られたことで、渡米時に執筆中であった論文を大いに改良することができ、本論文は今や完成間近となっている。また、同時に、会話的推意やほのめかしを主題とした研究を開始し、その成果の一部を2024/2/5に東大駒場キャンパスでハイブリッド開催されたWorkshop on Epistemology and Philosophy of Languageにおいて発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究を通して次のことが明確となった。Mona Simionは、あることが主張されたように思われたならばその内容を信じることは必然的に正当化されると論じている(「強い反還元主義」)が、Simionの議論には認識的正当化に関する説得的な理論が欠けている。本研究を進める中で、私はPeter Grahamによる、信頼性の高い仕方で真な信念を生じさせるという機能を持った認知メカニズムが標準的に機能した結果として信念を持つということがその信念の正当化にとって本質的であるとする機能主義という立場が、認識的正当化に関しては現状において最良の理論であるというという見解に至った。本年度の研究において判明したことは、機能主義を背景にしてSimionの反還元主義擁護の論証を再度見直すことによって、Simionの戦略は彼女が擁護したい強い反還元主義ではなく、むしろGrahamが擁護してきた機能主義に基づく反還元主義を支持するものであるということである。この成果をもとに現在論文を執筆中である。 さて、本課題に取り組む中で、従来の証言の認識論がもっぱら直接的な主張に注目しており、それ以外の間接的な情報伝達によって獲得される信念の正当化条件に関する検討が従来の研究には不足していることに気づいた。そこで、発話を介して間接的に伝えられる内容に基づく信念は証言的正当化を得られるのか、という課題に取り組み始めた。そのためにもともとの研究計画を変更する必要が生じたが、このトピックに関する主要な先行研究であるElizabeth Frickerの諸論文を批判的に検討することを通して、そもそも証言の認識論における「証言」とは何なのか、そして証言に基づく信念の正当化にとって本質的な条件とは何なのかについてのさらなる検討に進むことができ、その成果を発表原稿にまとめることはできた。そのため、研究は概ね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、認識的正当化に関する機能主義的アプローチに立脚し、会話を介して獲得される信念が認識的に正当化される条件を明らかにすることを目指す。まず、昨年度から執筆を続けている、強い反還元主義を批判する論文を完成させることを目指す。加えて、本年度は特に、会話的推意やほのめかしのような間接的なコミュニケーションに基づく信念が、いかにして認識的に正当化されうるかを検討する。さて、機能主義的見解において、証言に基づく信念の正当化にとって本質的なのは、コミュニケーションの標準的場面において、話し手がある命題を伝達することを意図したときその内容が真である見込みの高さ、および話し手の意味を聞き手が解釈する認知メカニズムの信頼性の高さである。そこで、本研究を進めるにあたっては、語用論における新グライス主義や関連性理論などの立場から、話し手が何かを意味するということがどういうことなのか、そして我々が話し手の意味を適切に解釈できているとしたらそれはいかにしてなのかを検討し、間接的コミュニケーションの信頼性に関する研究を行う。特に、我々があることをあえて直接言わずにほのめかす際の目的は、自身がその内容を意味したことをもっともらしく否認できるようにしておくことで、その内容を伝えたことへの責任を回避できるようにしておくということであると思われる(参考:Camp 2018 “Insinuation, Common Ground, and the Conversational Record”)。ゆえに、話し手の責任の引き受けが聞き手の認識的正当化にとって重要であると考える立場(例えば"assurance theory"と呼ばれる立場)に立てば、ほのめかしは聞き手に認識的正当化を与えないと論じる余地がある。そこで、話し手の責任と聞き手の認識的正当化の関係についての検討も行う予定である。
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Causes of Carryover |
2023年9月15日から2024年6月末までカリフォルニア大学リバーサイド校においてPeter Graham教授の指導のもとvisiting scholarとして研究活動を行うにあたり、日本-米国間の交通費および日当を直接経費の旅費から捻出した。もともとの令和5年度分の所要額では必要な額に届かなかったため、令和6年度分の使用額を前倒し申請した。しかしその際、米国滞在期間全体の旅費を9月の出発前に概算払として受け取ることになると考えていたため、令和6年度の4月から6月にかけて旅費として必要と見込まれた40万円を含む60万円を前倒し申請した。ところがその後、令和6年度の4月から6月までの旅費は令和5年9月時点で受け取ることはできず、令和6年度分の経費として改めて申請する必要があるということが判明したため、前倒し申請した経費のうち413,837円を次年度使用額に回すこととした。次年度使用額は、4月から6月までの日当および米国から日本への交通費として使用する予定である。
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