2022 Fiscal Year Annual Research Report
クロスβ性ペプチドナノ構造の精密構築とその機能創出
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22J22861
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
恒川 英介 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | βシート / ペプチド / 自己集合 / 金属配位 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、単独では特定の配座へとフォールディングしないような短いペプチドと金属イオンによる自己集合によって、金属ペプチド鎖がβシート構造へと配座固定され、これが一次元に集積したクロスβ性ペプチド錯体の精密構築を達成した。本研究ではこのような無限に会合するβシート性ペプチド錯体について、溶液中での観測をさまざまな手法を用いて試みた。多点水素結合により、凝集速度が著しく速いβシート構造において、それを阻害するようなN-メチル化ペプチドを混合することにより、この凝集速度を抑制することを考えた。結果として、溶液中の挙動の直接観測は各種分光装置のタイムスケールまで凝集速度を落とすことはできず、直接的な観察は行うことができなかった。しかしながら、これらN-メチル化ペプチドと通常のペプチドを混合し、自己集合を促すことで、その集積構造に変化を施すことに成功した。電子顕微鏡から観察された集積構造は、アミロイド分子などに見られる長周期のらせん構造を形成していた。これらは、らせんピッチのない線形な集積構造を生み出すペプチド単独との比較からN-メチル化ペプチドを混合したことによる効果であると考えられる。 また、クロスβ構造を構築するペプチド分子はこれまで全て光学的にL体のものを使用していたが、部分的にこれをD体にし、ペプチド分子が有する凝集性を落とすことで、溶液中での観察に近づくことができた。これらD体を含むペプチドの結晶構造からは4つのペプチドがβシートを形成している様子が確認されており、間接的に溶液中で4量体のβシート構造が安定化されていることを示す結果となった。現在は溶液挙動を観察するための適切な溶媒条件の検討を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初考えていた手法では今年度の研究計画や目標は達成できなかったが、新たな手法を本研究に適用することで、これを達成できる見込みが立ちそうであるため。条件検討などがまだ足りず、確実に達成できるとはいえない状況にはあるが、今後目標とする方向や、全く違う方向性でも研究が進展したため、おおむね順調に研究は進んでいると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はまず、本研究の目標の一つとして掲げているβシート構造の溶液中での単離・安定化を試みて行きたい。これまで、結晶系での間接的な安定化の示唆は確認しているため、まずは溶液条件の最適化を行っていきたい。具体的には、使う有機溶媒の種類、ペプチドや金属塩の濃度、さらには錯形成温度といったさまざまなパラメータの最適化を行っていく。さらには、これら構造を探索していく中で、あらたな錯体構造の創出も去年までで達成してきた。これらを踏まえ、これら錯体構造の原子構造から理論づけられるさまざまな機能や物性を見出していきたい。具体的には、βシート構造の一次元的な方向性を持った集積を利用し、分子を配列させながら分子包接を行うようなホストーゲスト特性を見出していきたい。これらは現在結晶状態、すなわち凝集系での機能を考えているが、溶液中での安定化ができた際には溶液中でのホストーゲスト特性についても評価できたらと考えている。βシート構造は、生体由来の系に関してはさまざまな研究が報告されており、十分な理解が進んできているものの、人工的にデノボ構築し、これを新たな機能に繋げていくような研究については、その設計性の難しさから、まだまだ研究が十分になされていない。本研究では、今後もそのようなβシートを利用した機能や物性の創出・発見に注力していきたい。
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