2023 Fiscal Year Research-status Report
ホスホエノールピルビン酸の構造改変を基軸とするタンパク質リン酸化反応の開発
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22KJ1152
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
藤吉 浩平 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | リン酸エステル化 / ケミカルバイオロジー / 触媒化学 / 光化学 / タンパク質修飾 |
Outline of Annual Research Achievements |
タンパク質のリン酸化は生命活動において必須の翻訳後修飾の一つであり、リン酸化酵素などの変異が原因となる疾患も数多く知られている。したがって、細胞内におけるタンパク質のリン酸化状態を人工化学触媒によって操作できれば、治療への応用が期待できる。 本研究では、生理条件下でのタンパク質中セリン残基選択的な触媒的リン酸モノエステル化反応の開発を目的とする。生理条件下でのタンパク質中セリン残基選択的リン酸化には、他の求核性アミノ酸残基との化学選択性と、求核力の類似した水とアルコール間の区別という課題を解決しなければならない。申請者は、リン酸化ドナーとしてホスホエノールピルビン酸(PEP)に着目した。PEPの動的平衡の中で最も熱力学的に安定なアルコールの修飾が優先することで化学選択性は達成されうる。また、水中で安定なPEPを触媒的にタンパク質近傍で活性化できれば、近接効果によりアルコールと水を区別できると考えられる。 まず、PEPのリン酸脱離基としてジヒドロピリジン骨格の検討を実施した。リン酸ジヒドロピリジンは酸化によりリン酸ピリジニウム種を生成しアルコールのリン酸化に至る。そこで、水素放出を酸化の駆動力とした光触媒、水素原子移動触媒、コバルト触媒によるハイブリッド触媒系による酸化法を設計した。本触媒系により1-ジフェニルリン酸-3,5-カルボニルエトキシ-1,4-ジヒドロピリジンを酸化し、アルコールのリン酸トリエステル化が中程度の収率で進行することを見出した。現在まで、収率の向上を目指し検討を行なったものの、反応の改善は達成されなかった。今後は、試薬の構造改変と触媒の検討を中心に収率改善を試みる。収率向上を達成したのち、ジヒドロピリジンを脱離基としたPEP誘導体を合成し、光触媒を連結したセリン含有モデルペプチドに対して生理条件下でのリン酸化を試みる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
PEPのリン酸脱離基としてリン酸ジヒドロピリジンによるリン酸化反応の検討を実施した。リン酸ジヒドロピリジンは酸化によりリン酸ピリジニウム種を生成しアルコールのリン酸化に至る。生体適用反応への応用を志向した温和な酸化法として、水素放出を酸化の駆動力としたハイブリッド触媒系を設計した。中性条件かつ、外部酸化剤を必要とせず実施可能であり、タンパク質への応用が可能だと考えられる。以下に、想定触媒サイクルを示す。 1) 光励起された光触媒により一電子酸化されて生じる水素原子移動触媒ラジカルがジヒドロピリジン4位の水素を引き抜く。 2) 2価のコバルト触媒による一電子酸化でリン酸ピリジニウム種を生成し、アルコールのリン酸化を進行させる。 3) ジヒドロピリジンとアルコール由来のプロトンによる1価のコバルト触媒のプロトン化と生成したコバルトヒドリドのプロトン化により水素分子を放出する。 4) 3価のコバルト触媒により光触媒が再酸化され、触媒サイクルが完結する。 以上の反応設計を元に、単純なアルコールを基質として検討を行った。アセトニトリル中青色光照射下室温にて、1.5当量の1-ジフェニルリン酸-3,5-カルボニルエトキシ-1,4-ジヒドロピリジンと共に、10 mol%のアクリジニウム光触媒、10 mol%のチオリン酸イミド水素原子移動触媒、10 mol%のコバロキシム触媒、20 mol%のリン酸二水素ナトリウムを作用させた結果、51%の収率で目的のリン酸トリエステルが得られた。今年度は収率と官能基許容性の向上を達成すべく、主に各触媒の検討を進めたものの、昨年度から大幅な収率改善は見られなかった。そのため、進捗状況は遅れていると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、収率と官能基許容性の向上を達成すべく、主に各触媒の検討を進めた。検討の中で、ジヒドロピリジン4位の水素引き抜きによって生じるラジカル種が二量化した副生成物が確認された。二量化によってリン酸化ドナーが消費されたため、収率が中程度にとどまったと考え、ジヒドロピリジン4位に置換基を導入したドナーを用いて反応を行なったものの、収率の向上は達成されなかった。今後は、ドナーの二量化を抑えるべく、さらなるリン酸化ドナーの構造改変とリン酸ピリジニウムへの酸化を促進するコバロキシム触媒の検討を進める予定である。 収率改善が達成された後、リン酸置換基としてジヒドロピリジンを導入したPEP誘導体の合成も試みる。PEP誘導体の反応性を有機溶媒中で確認したのち、触媒を連結したセリン含有ペプチドに対し生理条件下でのリン酸化を試みる。触媒近傍で活性化されたPEP誘導体は加水分解を受ける前にセリンと反応しなければならない。近接効果をより強固なものとするべく、セリン水酸基周りに疎水場を作ることを考えている。また、ボロン酸-ノポールジオールの高い親和性を生かし、PEP誘導体にボロン酸骨格を、ペプチドにノポールジオール骨格を導入することで、ペプチド近傍のPEP誘導体濃度を擬似的に上昇させる戦略も考案している。
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Causes of Carryover |
当該年度は、有機合成化学実験を中心とした試薬、機器の購入に多額の費用を使用しなかった。次年度は、有機合成化学実験に加え、高価な試薬、機器を使用した生物実験を行う予定である。そのため、より多くの費用が必要となるため、次年度への繰り越しをさせていただいた。
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