2022 Fiscal Year Annual Research Report
胸腺プロテアソームが産生するペプチドによるCD8+ T細胞の正の選択の制御機構
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22J23266
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡邊 綾香 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | T細胞分化 / プロテアソーム |
Outline of Annual Research Achievements |
獲得免疫系において機能する細胞障害性T細胞 (CD8+ T細胞) は、宿主細胞が提示する主要組織適合遺伝子複合体 (MHC) クラスIと、細胞内タンパク質分解複合体であるプロテアソームが細胞内のタンパク質を分解した産物から産出される抗原ペプチドとの複合体を認識することにより、免疫応答が開始される。 CD8+ T細胞は、胸腺において「正の選択」と「負の選択」と呼ばれる分化プロセスを経て分化・成熟する。特に正の選択には、胸腺皮質上皮細胞 (cTEC) における「胸腺プロテアソーム」の特異的な発現および、CD8+ T細胞のT細胞受容体 (TCR) とMHCクラスI-ペプチド複合体との「適度な」強度の結合が重要である。そのため、胸腺プロテアソームが産生する抗原ペプチドが正の選択に必要なアミノ酸配列を有すると考えられている。しかし、その具体的なアミノ酸配列とそれらが正の選択に寄与する分子機構は不明であった。
そこで我々は、マウスのcTECのMHCクラスIに提示されている抗原ペプチドにおいて特異的に出現するアミノ酸配列を探索することとした。野生型マウスと胸腺プロテアソームに特異的なサブユニットβ5tを欠損したマウスの抗原ペプチドの配列を、質量分析で比較することにより、胸腺プロテアソームが特異的に産生する抗原ペプチドの同定を試みた。
今回の実験で得られた抗原ペプチドの配列を、IceLogoにより解析した。その結果、野生型cTECの抗原ペプチドでは、C末端のバリンと、N末端から4番目のセリンが有意に高頻度に検出された。抗原ペプチドのC末端は、MHCクラスIとの結合に必須な位置であるとともに、抗原ペプチドのN末端から4番目のアミノ酸は、TCRとの結合に重要である。今回得られた結果は、抗原ペプチドとMHCクラスI、TCR双方の相互作用がCD8+ T細胞の正の選択に重要であることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでcTECの細胞数の少なさにより質量分析によるMHCクラスI結合ペプチドの配列の解析が困難であった。しかし、胸腺が成年期においても退縮しないように変異したマウスや、そのマウスにさらにβ5tを欠損させたマウスに由来するcTECを分与いただくことにより、質量分析に必要なcTECの細胞数を得ることができた。 実際にマウスのMHCクラスIのサブクラスの1つであるH-2Kbに結合するペプチドのうち、T細胞受容体 (TCR) との結合が知られているアミノ酸においてβ5t欠損によるアミノ酸配列の変化が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、同定された配列が実際にCD8+ T細胞の分化に寄与するかを調べる予定である。MHCクラスIの発現が不安定でありRMA-S細胞は、細胞外からペプチドを添加することによりその発現が安定する。この細胞により、質量分析により同定したペプチドがMHCクラスIに結合するかを確認する。 さらに、TAP1欠損マウス胎仔を器官培養し、そこに同定したペプチドを添加することによって、ペプチドが実際にCD8+ T細胞の分化誘導能を有するかを調べる予定である。
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