2022 Fiscal Year Annual Research Report
Identification of immune cells protecting from lethal viral infection in the central nervous system
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22J23507
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
里見 明澤 東京大学, 薬学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 脳内ウイルス感染 / 脳内免疫細胞 / 骨髄由来抑制性細胞 / 脳内免疫防御応答 |
Outline of Annual Research Achievements |
脳に感染する様々なウイルスは脳炎を引き起こすことでしばしば高い致死性を示し、回復しても認知機能低下等の後遺症を残す。しかしながら、脳内には種々の免疫細胞が存在することが近年急速に明らかとなってきているが、どの免疫細胞が脳内ウイルス感染に対する初期防御に重要な役割を果たしているかについてはほとんど明らかとされていない。 私はこれまでに本研究において、脳内ウイルス感染後にウイルス抵抗性を示す回復群と抵抗性を示さない非回復群に着目し、両群の脳内免疫細胞を調べる事で感染後の個体生存に寄与する未知の細胞集団やその動態に寄与する候補分子の同定を試みてきた。そして、脳内ウイルス感染後の脳内において、回復群に比べて非回復群で数の多い特定の細胞集団を見出し、この特定の細胞集団が抗ウイルス防御応答を抑制している可能性を示唆する結果を得ている。また興味深いことに、この特定の細胞集団は血液中から脳内へ浸潤しているのではなく、脳を取り巻く脳脊髄液・硬膜・頭蓋骨骨髄といった脳周辺組織から脳内へ浸潤している可能性を示唆する結果も見出した。さらに重要な事に、脳内ウイルス感染後に特定の細胞集団の脳内への浸潤に関与すると考えられる候補分子の機能を阻害する薬剤を投与する実験によって、脳内ウイルス感染後の脳内の特定の細胞集団が減少しただけでなく、個体の生存率も阻害剤投与によって回復する傾向にある結果も得ている。 本研究によって、脳内ウイルス感染後の個体生存に大きく影響する未知の特定の細胞集団が同定されつつある。さらには、その特定の細胞集団の動態を人為的に左右する事で、脳内ウイルス感染後の生存率を改善できる可能性が本研究により示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究において、特定の細胞集団が脳内で抗ウイルス応答を抑制し、それにより十分にウイルスを排除できずに個体衰弱を惹起する可能性について検証するために、脳内ウイルス感染後の特定の細胞集団の脳内への浸潤の抑制を試みた。まずは、本研究の一細胞遺伝子発現解析(scRNAseq)により、特定の細胞集団の遊走に関わる候補因子を同定し、候補因子の機能を阻害する薬剤を脳内ウイルス感染後に投与した。それにより、特定の細胞集団の脳内への浸潤が抑制されただけでなく、薬剤非投与群に比べて薬剤投与群で脳内ウイルス感染後の生存率が回復傾向にある予備的な結果を得ている。 また、本研究より脳実質を取り囲む髄膜・頭蓋骨骨髄において、脳内ウイルス感染後のそれらの組織中で特定の細胞集団が脳内と同様に非回復群で有意に多いことが判明した。興味深いことに、脳内と髄膜中の特定の細胞集団の数の関係を比較したところ、両組織間での数が強く正に相関している事が判明した (この相関はCD3+細胞(T細胞)では見られなかった)。 さらには、脳内ウイルス感染後の脳実質と髄膜の間を満たしている脳脊髄液のプロテオームの結果から、特定の細胞集団の浸潤を誘導するいくつかの候補因子が、非回復群の脳脊髄液で有意に多いことも判明した。本研究に加えて、先行研究より一部の病理条件下で脳実質中の一部の免疫細胞が、頭蓋骨骨髄より髄膜を介して供給されているという報告がある。これらの結果から脳内ウイルス感染後の脳内の特定の細胞集団は頭蓋骨骨髄で産生され、髄膜・脳脊髄液を介して脳内に浸潤する可能性を考えている(特定の細胞集団はT細胞のように血中由来ではなかった)。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、脳内ウイルス感染後に、個体間でどのようにしてその特定の細胞集団の動態に違いが生じるのかについて、その機構の解明をしていきたいと考えている。回復群と非回復群の間において、脳脊髄液のプロテオームの結果から、すでにいくつかの特定の細胞集団を誘導する候補因子を見出している。そして、脳脊髄液のプロテオームにおける各タンパク質の動態から、異なるタンパク質同士の潜在的な相互作用の解析を行うことで、候補因子のダイナミクスにも迫りたいと考えている。最終的には、候補因子を阻害することで、脳内ウイルス感染後に特定の細胞集団の誘導がキャンセルされるかどうかを検証する予定である。 同時に、特定の細胞集団の遊走に寄与する候補分子の欠損マウスを作成しており、欠損マウスにおいて本当に特定の細胞集団が脳内に浸潤しなくなるか、またそれにより脳内ウイルス感染後の生存率が上がるかどうかを検証する予定である。そして、特定の細胞集団の両群間における数だけではなく機能的な差異について検証する為に、両群の脳内の特定の細胞集団を回収し、網羅的遺伝子発現解析(RNA-seq)によって有意に発現変動している遺伝子を探索する予定である。 さらには、特定の細胞集団が脳内ウイルス感染後に頭蓋骨骨髄から、髄膜を介して脳内に浸潤している可能性を検証するために、頭蓋骨骨髄内の細胞をラベルする方法を模索している。同時に、脳内ウイルス感染後の脳内・髄膜・頭蓋骨骨髄において特定の細胞集団を可視化するマウスを作成しており、全組織透明化処理後にライトシート顕微鏡を使って、組織間の特定の細胞集団のダイナミクスを明らかにする予定である。
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