2022 Fiscal Year Annual Research Report
身体不活動に伴う脂肪髄形成の病態理解-1細胞解析による骨髄間葉系細胞群変容の解明
Project/Area Number |
22J40144
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
住谷 瑛理子 東京大学, 医学系研究科, 特別研究員(RPD)
|
Project Period (FY) |
2022-10-03 – 2026-03-31
|
Keywords | 身体不活動 / 脂肪髄 / 骨髄間葉系細胞 / RANKL |
Outline of Annual Research Achievements |
長期臥床など身体不活動の状況では、骨髄中の造血組織が脂肪細胞に置き換わる脂肪髄化が起こり造血・免疫機能が低下することが問題となる。本研究では身体不活動によって引き起こされる骨髄組織の脂肪化の機序を解明することを目的とする。具体的には、脂肪細胞の前駆細胞となる骨髄間葉系細胞の同定ならびに同定した前駆細胞から脂肪細胞への分化を促進する分子メカニズムを明らかにする。 これまでの研究において胎生期のマウス骨髄間葉系細胞の一部にRANKLを発現した履歴のある亜集団が存在することを見出している。そこでまず、同様の細胞が成体の骨髄に存在するかどうかを調べた。RANKLを発現した細胞が蛍光タンパク質で標識される遺伝子改変マウス(RANKL fate mappingマウス)の大腿骨を組織学的に解析したところ、骨幹端付近に存在する骨芽細胞系譜細胞に加え、骨髄中の間質細胞や傍血管細胞の一部が出生後にRANKLを発現した履歴を有することがわかった。次に、これらの「RANKLを発現した骨髄間葉系細胞」が身体不活動による脂肪髄化にどのように関係するかを明らかにするために、8週齢RANKL fate mappingマウスに後肢不動化処置を施し、2週間の拘束の後、骨と骨髄から単離した標識細胞に対して一細胞遺伝子発現解析を行った。今後得られたデータの解析を進めることで、「RANKLを発現した骨髄間葉系細胞」が身体不活動によりどのような遺伝子発現変化を示すかが明らかにし、RANKL発現細胞と脂肪髄化の関係を探る上での手がかりを得ることを目指す。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究を開始した令和4年10月から半年の間に以下の検討を行った。 ・RANKL fate mapping (Tnfsf11-tTA; LC1; R26-tdTomato)マウスを用いて、RANKLの発現履歴のある細胞が成体の骨髄中に存在するか否かを調べた。胎生0日から出生までの期間に母親マウスの飲み水にdoxycyclineを添加し、出生後よりdoxycycline投与を止めることにより、出生後にRANKLを発現した細胞を標識したマウスを作成した。このRANKL fate mapping mouseの8週齢における大腿骨を組織学的に解析したところ、骨幹端の骨芽細胞系譜の細胞や骨髄中の間質細胞、傍血管細胞が標識細胞として検出された。この結果から、出生後にRANKLを発現した履歴のある細胞が成体の骨髄中に存在することが明らかになった。 ・RANKL fate mappingマウスの骨から骨髄間質細胞を含む非血球系細胞を単離するための条件検討を行った。骨と骨髄に対するEDTA処理と酵素処理により細胞を単離し、セルソーターを用いてtdTomato陽性LepR陽性骨髄ストローマ細胞を得ることができた。 ・RANKL fate mappingマウスに対して後肢不動化処置(SWI法)を行い、2週間の不動化の後、両脚の大腿骨および脛骨から非血球系tdTomato陽性細胞を単離し、一細胞遺伝子発現解析を行った。 以上の通り条件検討を重ね、不動化処置RANKL fate mappingマウス由来の骨髄間葉系細胞に対する一細胞遺伝子発現解析を実施することができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
令和4年度の研究によって、2週間の不動化処置を行ったRANKL fate mappingマウスの骨髄から単離したtdTomato陽性細胞(すなわちRANKL発現履歴のある細胞)の一細胞遺伝子発現データを得た。今後の研究ではこのデータを解析することによって不動化処置、非処置サンプルでの遺伝子発現差異を明らかにする。特に脂肪細胞分化との関連が報告されている遺伝子に着目し、脂肪髄形成の進行に伴い発現変動を示す遺伝子を同定する。非処置群との発現差解析から骨髄脂肪細胞の起源となる間葉系幹細胞・前駆細胞の候補を探索する。また同定した細胞群を特徴付ける遺伝子発現を抽出し、分子マーカーや機能分子の候補を得る。また偽時系列解析やRNA velocity解析を行うことで不動化時の骨髄脂肪細胞の分化系譜を推定する。 一方、一細胞遺伝子発現解析により同定した間葉系幹細胞・脂肪細胞前駆細胞の候補が組織上のどこに分布するか、いつから出現するかを解析する。不動化したマウスの大腿骨を処置後1~2週間の間の複数のタイムポイントで採取し免疫染色により当該細胞が出現・増加する時期を明らかにする。免疫染色による同定が困難な場合には当該細胞を標識するレポーターマウスやfate mappingマウスを用いる。 さらに、同定した間葉系幹細胞・脂肪細胞前駆細胞の候補を蛍光タンパク質で標識できる遺伝子改変マウスを作成し、標識細胞が不動化による脂肪髄形成に寄与するか否かを組織学的解析により検証する。また、当該細胞を除去できる遺伝子改変マウスを作成し、不動化による脂肪髄誘導への影響を調べる。また、一細胞遺伝子発現解析により同定した機能分子を脂肪細胞前駆細胞において特異的に欠損した遺伝子改変マウスを作成し、不動化による脂肪髄化が緩和されるか否かを解析することで骨髄脂肪細胞分化の分子メカニズムを明らかにする。
|