2022 Fiscal Year Annual Research Report
川端康成文学における舞踊と美術―大正期から昭和初期のドイツ表現主義との関連を探る
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22J13874
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
熊澤 真沙歩 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 川端康成『花のワルツ』 / 川端康成『舞姫の暦』 / モダンダンス / 日本舞踊 / 銀座のデパート文化 / クロスオーバ |
Outline of Annual Research Achievements |
川端の舞踊観劇体験や舞踊文化への知見がいかに文学テクストに反映しているか調査した2022年度の研究は、主筆研究論文1本と国際学会発表1回のなかで研究実績として発表した。 執筆した論文、熊澤真沙歩「川端康成『花のワルツ』における日本化したモダンダンス「びつこの踊」」(『跨境 日本語文学研究』第15号, pp.181-197, 2022年12月,査読あり) でまとめた研究は、PCL(後の東宝)の映画シナリオ用に書かれた舞踊小説「花のワルツ」を川端が観劇した舞踊公演や、石井漠、高田せい子、梅園龍子など交流があったダンサーなどの同時代的背景を調査し、舞踊文化状況をテクスト読解に代入した新しい視野をもつ論文として国際電子ジャーナルに掲載された。 熊澤真沙歩「川端康成『舞姫の暦』―浅草/銀座のモダン都市文化と舞踊―」(第6回東アジア日本研究者協議会国際学術大会「次世代発表」, 北京外国語大学主催Zoom開催, 2022年11月4-6日査読あり, 日本語 )という題目で発表した研究内容は、注目されることのすくなかった中編小説『舞姫の暦』のコンテクストとして、銀座のデパート文化、そしてモダンダンスと日本舞踊の接合する1935年前後の舞踊文化を掘り起こしたものである。プロットやキャラクター造形に、欧米追従型のモダンダンスではなく伝統的民族舞踊をアップデートして国内外から賞賛を集めた崔承喜、そしてバレエやモダンダンスのエッセンスを盛り込んで「新舞踊運動」を牽引し西洋舞踊の勢いに押されていた日本舞踊に新風を巻き起こした藤陰静枝など、実在した伝説的舞踊家の輝かしい影が見え隠れする点を、川端文学と舞踊文化をクロスオーバーする本研究が発見した2022年度の新しい成果として提起した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2022年度は、「踊に関心を持つ少数の作家の一人」(「『舞姫の暦』作者の言葉」1935年1月)と自称する川端がいかに舞踊文化を小説に織り交ぜたかを主として研究した。これまでの研究内容を、主筆研究論文1本と国際学会発表1回のなかで研究実績として発表したことは、現在までの進捗状況がおおむね良好であることを示す。特に川端が観劇した舞踊公演や、石井漠、高田せい子、梅園龍子、宮操子など交流があったモダンダンサーとの接点を記述した随筆や、小説などを発見した。2022年度の最も大きな成果は、川端が欧米追従型のモダンダンスだけではなく伝統的民族舞踊を取り入れてアップデートした新しい日本的な舞踊を想定していた点である。これは当初の研究計画では予想していなかった研究結果である。また2023年度に、舞踊文化と川端文学のクロスオーバーだけではなく視覚メディアとの協同性を研究する予定であるが、その事前準備としてテクスト選定や、同時代の美術あるいは映画など視覚メディア状況に関する研究書や理論書の読み込みを並行して行っている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は、伝統的民族舞踊を取り入れてアップデートした新しい日本的モダンダンスをを深堀する。特に、川端康成『舞姫』(1951)に描かれる西洋舞踊の勢いに押される日本舞踊に新風を巻き起こした吾妻徳穂の公演「長崎の絵踏」(1946)の舞台内容と、財産を独占しようとする夫への信頼が崩れつつある波子の苦悶、忘れられない恋人への想い、女性舞踊家として舞台に立ち続ける不安などの心情は交叉している。また、仏教要素を取り入れた波子のソロ創作舞踊「仏の手」のグローカルな意義について敗戦後日本の混乱状況を踏まえて再検討する。上記の内容を国際学会の場で発表するために国際学会「第11回 東アジアと同時代日本語文学フォーラム バリ大会」(【個人発表】2023年9月1-2日)に応募中である。 また、当初は、美術と川端文学のクロスオーバーも研究課題として想定していたが、美術よりも映画という視覚メディアとの協同性のほうが、舞踊文化からの発展形としてより隣接した問題系を扱える可能性が出てきた。川端の映画産業へのコミットメントは意外に早く、1920年代後半に遡る。川端康成脚本の映画『狂つた一頁』(衣笠貞之助監督、1926)が上映されたが、京都の撮影所に同行した川端はロケの現場でシナリオを書き直した。川端が製作に携わった映画の表現的傾向は、スクリーンのなかに舞踊家の身体表現を映した点である。映画『狂つた一頁』の旋回しつづける踊子のカットインは川端の発案によるもので、交流のあった舞踊家の南栄子に出演オファーも川端自身が行った。舞踊あるいは映画との協働性を通して、どのように川端の文学表現は変異したか研究することで、より1920年代から1930年代の川端文学における複合芸術表現の全体像の把握に繋がる推進方策に軌道修正する。
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