2022 Fiscal Year Annual Research Report
潰瘍性大腸炎・大腸がんモデルにおける残存細胞群の粘膜再生とがん化特性の解明
Project/Area Number |
22J21684
|
Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
小林 美央 東京農工大学, 大学院農学府, 特別研究員(DC1)
|
Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
|
Keywords | 潰瘍性大腸炎 / 粘膜再生 / Unrestituted cells / 大腸炎関連がん / マウス / 大腸オルガノイド |
Outline of Annual Research Achievements |
令和4年度は ①大腸炎モデル(DSS)および大腸炎関連がんモデル(AOM/DSS)におけるUnrestituted cells (UCs) の大腸陰窩幹細胞および娘細胞特性の解析 ②DSSモデルおよびAOM/DSSモデルにおけるオルガノイド作製と解析 ③DSSモデルおよびAOM/DSSモデルにおけるトレーシング解析、に取り組んだ。 実験①では、AOM/DSSモデルとDSSモデルにおけるUCsの細胞特性を比較解析した結果、AOM/DSS群のUCsはDSS群と同様にDLL1陽性細胞が主要構成細胞である一方で、SOX9とLGR5の発現強度には変化がみられ、DSSモデルでは少数であったActive-Intestinal stem cell (LGR5強陽性SOX9弱陽性)およびSlowly-cycling Secretory precursor (LGR5弱陽性SOX9弱陽性) が維持される傾向が強いことがわかった。UCsはヘテロな発現で定義される前駆細胞であることが示唆された。DSSモデルとAOM/DSSモデルにおけるUCsの細胞特性の違いは、異なる実験条件を設定することにより、UCsが粘膜再生とがん化の両側面をもつという仮説を検証可能であることを示している。実験②では大腸オルガノイドの作製に成功した。全群でLGR5、SOX9に陽性細胞がみられ、特にAOM/DSS群ではLGR5、γ-H2AX (DNA傷害指標)に強い陽性を示した。これらの結果は、in vitroでのUCsの細胞特性の再現に向けて大きな前進であるといえる。実験③では、潰瘍期にはBrdU標識UCsが観察されたが再生期では大勢が非標識UCsであった。この結果は、UCsの由来が一連のものではない細胞集団であることを示唆しており、さらに詳細なトレーシング解析を実施することがUCsの動態解明につながると傍証を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
予定していた細胞トレーシング解析の実施に先立ち、実験①と②をおこなった結果、DSSモデルにおけるUCsとAOM/DSSモデルにおけるUCsおよびオルガノイドの細胞特性が異なることが示唆された。このことから、当初の予定通りUCsが粘膜再生とがん化の両側面を持つという仮説を軸に実験が進行できている。UCsの動態解明を目的に実施したトレーシング解析では、BrdU標識UCsの発現率に経時的差異がみられることが明らかになった。UCsは潰瘍期と再生期に観察されたことから、その由来が陰窩のある一定領域から発生することが明らかとなった。令和4年度の実験を実施したことにより、UCsの動態解明にむけてさらに詳細な実験計画を立案する手がかりを得ることができた。実験①、②の成果については、日本獣医学会および日本毒性病理学会にて発表することができた。また、これらの研究過程において直腸と肛門部の移行帯(Transitional Zone: TZ)における扁平上皮様細胞の異常増殖に気がついた。この扁平上皮様細胞は、TZマーカーのSOX2に加え、LGR5およびSOX9を発現することを見出した。この異常再生TZの下部には上記のUCsが観察されており、直腸上皮の再生促進とTZ上皮の増殖抑制の制御の両側面が粘膜治癒の達成に重要であると考えている。また、TZ由来オルガノイドと扁平上皮由来のオルガノイドの形態的特徴がマウス大腸炎でのTZの観察結果と類似していた。以上の結果から、TZ由来の細胞集団をオルガノイドとして再現できたと考えている。これまでに明らかになったTZの結果の一部について、現在論文準備中である。今後はUCsの解析に加えて、TZとの関連性についても検討を加えていく予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
今後は、①BrdU投与のタイミングの追加および異なる細胞増殖指標 (IdU、EdUなど)を併用したトレーシング解析によるUCsの動態解明 ②空間領域特異的トランスクリプトーム解析によるUCs特異的遺伝子の確立 ③ in vitroでのUCsの細胞特性の再現 ④UCsとTZとの関連性を解明、の4つのテーマを軸に研究を遂行する。最終目標として、UCsの真の細胞特性を確立し新たな粘膜再生およびがん化メカニズムの提案を目指していく。
|