2022 Fiscal Year Annual Research Report
化学的非平衡環境が駆動するリボザイム進化の実験的検証
Project/Area Number |
22J01277
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Research Fellow |
野田 夏実 東京工業大学, 地球生命研究所, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2025-03-31
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Keywords | 生命の起源 / 非平衡環境 / 生体関連分子 / 凍結融解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、化学条件が時間的・空間的に一様でない非平衡な周辺環境が、原始生体分子が「進化する」機能を獲得するのに重要な役割を果たした可能性を、合成生物学・進化分子工学的実験手法で検証することを計画した。特に令和4年度の実験計画としては、化学非平衡環境における生体分子の挙動を調べる実験手法の確立を目標に掲げた。 申請後に発表された関連研究から、ミュンヘン大学Dieter Braun教授のグループが、本課題の対象に挙げたイオン濃度勾配やpH勾配をマイクロデバイス中に自律的に実装する技術を実証済みだと判明した。特に、リボザイムを構成するRNA分子の重合が、温度勾配を維持した非平衡環境にて促進されうることが明らかにされた。 そこで本課題の推進戦略を見直し、①当該グループと連携し共同研究として取り組むこと、②当該グループとは異なるアプローチで非平衡環境の自律的な構築を試みること、が適切だと考えた。そこで、①に関して、2023年1~3月に代表者野田がミュンヘン大学を訪問し、乾湿サイクルでのRNA重合を調べるプロジェクトに参画した。具体的には、大学院課程の研究で身につけた地球化学分野の知見を活かし、鉱物表面における蒸発がRNAモノマーの重合を駆動するか調べる実験を行った。 ②に関しては、イオン濃度等が局所的・経時的に変化する別の環境として緩慢凍結融解サイクルに注目した実験を始動した。凍結・融解速度を制御可能なプログラム低温槽を受け入れ研究室に導入し、リボザイムなど機能分子を内包しうるリン脂質二重膜や、遺伝情報の媒体となるDNA分子が、緩慢凍結融解に伴う濃縮に起因して相互作用する過程を、定性的・定量的に評価する手法を確立した。 加えて、本課題を機に研究分野を大きく変えたため、各種研究会やワークショップに積極的に参加し、分野の最先端技術や注目課題についての知識や、関連する研究者との人脈を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
該当年度の実験計画として、化学非平衡環境における生体分子の挙動を調べる実験手法の確立を目標に掲げた。また、代表者野田は生体分子工学の実験技術を新規に身につける必要があり、受け入れ研究室にてこれを行うことが初年度に必要であると認識していた。 研究分野の最新の状況や成果を受けて、溶存イオン濃度を手動で変える当初の実験手法で行う進化実験は、手法を開発してもインパクトに欠けると判断し、実験デザインや計画の見直しを余儀なくされた。それにも関わらず、凍結融解サイクルによって溶存イオン濃度を局所的・経時的に変化させるアイデアを実現し、実験手法の確立という目標を達成させた。また、分野をリードする海外研究室に短期滞在し、最先端の研究状況に触れることで、共同研究に資する知見や人脈を得た。さらに、研究室が得意とする実験手法を学部生と共に学び、研究室内の他のプロジェクトに携わる学生の実験計画や研究発表に助言をできるほどの知識を身につけた。そのため、掲げた目標を十分達成できたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
導入した凍結融解実験装置や、生体分子同士の相互作用を評価する手法を活かして、「進化する」機能の獲得に非平衡環境が重要となった可能性を検証する。より具体的には、予備実験の結果から、温度変化率を小さく保った緩慢凍結融解実験において、DNA分子や溶存イオンの濃縮を引き起こすことができ、DNA断片の連結反応が恒温条件よりも効率的に進行する可能性が示唆された。これを物理化学メカニズムまで含めて検証し、国内外の研究会にて成果発表や議論を行うことを、続く目標に据えている。さらに投稿論文の形で発表が叶えば、受け入れ研究室内でも全く新しいプロジェクトに関する最初の成果となる。
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