2023 Fiscal Year Research-status Report
化学的非平衡環境が駆動するリボザイム進化の実験的検証
Project/Area Number |
22KJ1296
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Allocation Type | Multi-year Fund |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
野田 夏実 東京工業大学, 地球生命研究所, 研究員
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Project Period (FY) |
2023-03-08 – 2025-03-31
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Keywords | 生命の起源 / 非平衡環境 / 生体関連分子 / 凍結融解 / 長鎖DNA合成 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題では、化学条件が時間的・空間的に一様でない非平衡な周辺環境が、原始生体分子が「進化する」機能を獲得するのに重要な役割を果たした可能性を、合成生物学・進化分子工学的実験手法で検証することを計画した。申請後に発表された関連研究成果を受け、当初の溶存Mgイオン濃度を手動で変える当初の実験手法で行う進化実験手法はインパクトに欠けると判断し、緩慢凍結融解サイクルに注目した実験デザインを図った。 令和4年度までの予備実験から、温度変化率を小さく保った緩慢凍結融解実験において、生体分子や溶存塩の濃縮を引き起こせることが示唆された。これを踏まえて令和5年度には、長鎖DNA断片の長い接着末端を介したハイブリダイゼーション反応が、通常は反応速度が極めて遅くなる低濃度DNA条件においても、緩慢凍結融解条件では効率的に進行することを示した。この現象は緩慢凍結融解によって生じる共融液相中への分子濃縮に起因すると考えられ、この仮説を検証するために様々なDNA濃度・溶液組成・凍結融解速度のもとで反応効率を定量的に比較した。その結果、DNA分子自体の濃縮だけでなく、DNA分子の挙動に影響を及ぼすMgイオンの濃縮も起きることで、特に融解過程において反応が促進されたことが示された。この結果は、周期的な温度変化による凍結融解という環境で自律的に起こりうるサイクルにより、(原始)生体分子の濃度や周辺の溶液条件が変化し、恒温条件よりも相互作用が促進される可能性を開拓したものである。生命起源研究において、原始生体分子の濃縮場として乾湿サイクルが重要視されてきた所に一石を投じる結果と言えることに加え、遺伝子レベルの長鎖DNAを効率的に連結できる手法として、ゲノムサイズDNAの合成といったバイオテクノロジーへの応用にも繋がりうる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
該当年度の実験計画として、前年度までに確立した実験・分析手法を生体分子に応用することで、化学非平衡環境が生体分子の挙動や相互作用に影響した可能性やそのメカニズムを解明し、国内外の学会で成果発表に至ることを目標に掲げた。当初の計画から実験デザインの見直しを余儀なくされたものの、新規に開始した緩慢凍結融解実験を活用して、長鎖DNA断片同士の伸長反応を実証し、さらにこれが溶存Mgイオンの濃縮に由来するというメカニズムを明らかにすることができた。得られた成果は日本生物物理学会のシンポジウムにおける英語口頭発表に採択されるなど、国内外の研究会にて発表し関連分野の研究者と議論を行った他、国際学術誌に投稿済みであり改訂原稿が査読中である。したがって、掲げた目標をおおむね順調に達成したと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
凍結融解サイクルがもたらす化学非平衡環境が、「進化する」機能の獲得に寄与した可能性を調べるために、DNA分子だけでなく他の生体分子を加えた系を扱うことを計画している。これまで生命の情報を担うDNA分子の複雑化に焦点を絞った実験を遂行してきた。しかし「進化する」機能の達成には、情報分子がコードする機能に従って選択的に複製・分配される必要があり、触媒能や自己複製能が両立されなければならない。そこで、生体反応を触媒する酵素やリボザイム、区画化を担うリン脂質膜を加えた系を検証し、多種多様な生体分子の複雑な相互作用が化学非平衡環境によって促進された可能性を調べる実験に取り組む。
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Causes of Carryover |
実験デザインを当初の計画から見直し、凍結融解サイクルによって自律的に周辺環境が変動する条件を模擬した系を新規構築した。これに伴い、生体分子に生じた化学非平衡環境の影響の解明、より具体的には遺伝子配列の設計や解析といった段階が当初の計画よりも後ろ倒しとなった。そのため、該当の生体分子デザインに要する物品の購入や外注分析にかかる費用を、次年度に充てる計画をしている。
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