2022 Fiscal Year Annual Research Report
芳香環カプセルを活用した揮発性有機化合物の分子変換法および捕捉技術の開発
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22J14922
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
角田 瑠輝 東京工業大学, 物質理工学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 分子カプセル / 揮発性有機化合物 / 分子変換 / 固体材料 / ベンゼン誘導体 / テルペン |
Outline of Annual Research Achievements |
工業由来の揮発性有機化合物(VOC)であるベンゼン誘導体に対する芳香環カプセルの捕捉能を調査した。カプセル固体は、結晶化や高温での真空引きなどの前処理を必要とせず、揮発したベンゼンやトルエン、キシレンなどのベンゼン誘導体を常温・常圧・1時間でカプセル1分子あたり最大3.5分子捕捉した。カプセルは水中にて内部空間にキシレンを最大2分子しか捕捉できないため、固体状態ではカプセル間の隙間にもVOCを捕捉できることが考えられる。次に、カプセル固体は、π-π相互作用を駆動力として、ベンゼンとシクロヘキサンからベンゼンを90%、トルエンとメチルシクロヘキサンからトルエンを86%の選択性で捕捉した。さらに、既存固体材料では識別困難なメチル基の数に対する選択性を示した。0、1、2つのメチル基を持つベンゼン、トルエン、o-キシレンの混合物の中から、o-キシレンを85%の選択性で捕捉した。カプセルを構築するアントラセンパネルとメチル基間に働くCH-π相互作用が重要な相互作用であると考え得られる。 芳香環カプセル固体の詳細なVOC捕捉能を調査すると、捕捉したVOCの揮発性を顕著に抑制できることが明らかになった。ベンゼン、トルエン、o-キシレンを捕捉したカプセル固体を100℃で1時間真空引きした結果、室温で真空引きした際と同等の捕捉量および比率となり、VOCを強く捕捉できる空間により100%の揮発抑制が可能であった。また、その強力なVOC捕捉能を活用して、320 ppmの希薄条件においてo-キシレンを最大60%回収することに成功した。さらに、剛直で安定な構造をもつカプセルは、最低5回以上VOC捕捉を繰り返すことができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
芳香環カプセルによるシクロヘキサンやベンゼン、トルエンなどのVOCの気体の捕捉実験を常温・常圧・1時間で行い、VOCに対する捕捉選択性を有することを明らかにした。競争実験より、脂肪族炭化水素よりも芳香族炭化水素に対してπ-π相互作用を駆動力とした高い選択性を示した。また、芳香族炭化水素の中でも、メチル基を持つVOCを優先的に捕捉し、ベンゼン、トルエン、o-キシレンの中から2つのメチル基を持つo-キシレンに対して85%の選択性を示した。カプセルのアントラセンパネルとメチル基間のCH-π相互作用が重要であり、既存固体材料では困難なメチル基を識別可能であった。さらに、カプセルは内部空間だけではなく、カプセル間の隙間にもVOCを捕捉できることを明らかにした。 芳香環カプセルのVOC捕捉能を詳しく調査した結果、捕捉したVOCの揮発性を顕著に抑制可能であり、特に100℃において100%抑制できることを明らかにした。また、有機溶媒としてアセトニトリルを使用してカプセルから捕捉したVOCを抽出し、カプセルの再利用実験を行った。その結果、最低5回以上は捕捉性能を低下させることなくVOCを捕捉可能であった。さらに、320 ppmのo-キシレンを60%回収できることを明らかにした。これらの多機能性は、カプセルの安定で剛直な構造とアントラセンパネルに囲まれた球状空間がVOCを強く捕捉できることに由来する。 一方で、申請時に計画していた、芳香環カプセルの架橋金属イオンや側鎖、カウンターイオンなどの構成要素を変更によるVOC捕捉能力の調整を行うことができなかった。以上の結果から、おおむね順調に進展している、を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、植物由来のVOCであるテルペンの分子変換法の開発を行う。まず、芳香環カプセルの炭素数10個の鎖状モノテルペンに対する捕捉能を水中にて調査する。ヒドロキシ基をもつゲラニオールやホルミル基をもつシトロネラールなど、捕捉可能なモノテルペンを基質とする。次に、基質を捕捉したカプセルの水溶液を酸とともに撹拌し、カプセル内部にてカルボカチオンを発生させる。カプセルのアントラセンパネルとの相互作用により安定化かつ配座を固定させることにより、選択的な分子内環化生成物を合成する。添加する酸の種類や撹拌する際の温度・時間・濃度を反応条件として検討し、合成したテルペンは、ジエチルエーテルやクロロホルムなどの有機溶媒を用いてカプセルから抽出する。モノテルペンの分子変換にて反応条件を最適化した後に、炭素数15個のファルネソールや20個のゲラニルゲラニオールなどの鎖状高次テルペンを基質として、複雑な環化生成物の選択的な合成に挑戦する。 水中だけでなく、カプセル固体を使用した固相条件での分子変換も試みる。水中と同様に、カプセル固体が捕捉可能な揮発した鎖状モノテルペンを、密閉容器内での捕捉実験から求める。p-トルエンスルホン酸などの酸を担持させたカプセル固体で揮発モノテルペンを捕捉し、酸性条件での反応を検討する。水中および固体状態での基質の捕捉および生成物の同定は、NMR、ガスクロマトグラフィー、質量分析、X線結晶構造解析から詳細に決定する。反応機構をDFT計算やコントロール実験から明らかにする。
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