2022 Fiscal Year Annual Research Report
The quest for a new "decorative" expression by the female painter Eleonore Escallier and its self-representation
Project/Area Number |
22J13106
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Ochanomizu University |
Principal Investigator |
志水 圭歩 お茶の水女子大学, 人間文化創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | エレオノール・エスカリエ / ジャポニスム / 装飾芸術 / 19世紀後半のフランス陶磁 / 装飾パネル / テオドール・デック / 女性画家 / 花の絵画 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度の主な考察対象である、エレオノール・エスカリエ(1827-1888)の自画像作品(1863年サロン(官展)出品作)について、仏国立図書館において19世紀後半に同国で出版された定期刊行物や関連作品の調査等を実施した。その結果、エスカリエが、画家や彫刻家、職人の間に存在していた旧来のヒエラルキーに囚われずに、自己の手を用いながら、多様な支持体において、当時盛り上がっていた産業芸術振興の気運を背景に新たな芸術表現を探求していた制作姿勢が浮かび上がってきた。陶磁器に絵付けする自己を描いた本自画像には、そうした制作態度の一端が現れているとも言える。しかし本作では、彼女は芸術家のようにも、職人(本作では陶磁器の絵付け師)のようにも描かれておらず、代わりに身持ちの良い婦人が余技に興ずる風情で描かれている。この点からは、エスカリエが社会が求めた女性像に親和的に自己演出したことが推測され、同時に当時の女性画家をとりまく厳しい情勢が窺える。彼女は産業芸術振興の追い風を受けて、斬新な装飾表現に関心を寄せたが、一方で、サロン(官展)には伝統的な表現寄りの花の絵画多数出品しており、彼女の美術行政への購入の懇願も相まってか、1860年代には3点の絵画が国家購入された。ここからは、産業芸術振興の動きによって、伝統的な芸術の在り方が揺さぶられながらも、画家たちにとっては、サロン(官展)入選が依然大きな意味を持っていた状況が窺える。本自画像は、先行研究において、エスカリエが画業のほかに陶磁器業にも従事していたことを示すために引き合いに出されてきたが、考察の結果、その点にとどまらず、エスカリエ自身の旧来のヒエラルキーに囚われない制作姿勢や、産業芸術振興の気運、女性画家を巡る厳しい状況、画家とサロンの関係等、当時の芸術の諸相の一端を示す作品と美術史に位置付けることができると考え、引き続き研究を進めている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
令和四年度は、エレオノール・エスカリエ(1827-1888)の自画像作品(1863年サロン(官展)出品作)を中心に研究を進めたほか、先行研究ではほとんど取り上げられていない、エスカリエの装飾パネル6点(1874-1875年制作)や絵画4点、合計10点を調査することができた。 前者については、フランス国立図書館において19世紀後半に同国で出版された定期刊行物や二次文献を調査したほか、エスカリエの中国陶磁への関心、特に銅紅釉の花瓶に対する興味を考察した。後者については、装飾パネル6点についてはレジオン・ドヌール宮オーロールの間・ミューズの間にて、絵画については、それぞれパリ装飾美術館、ロン・ル・ソーニエ美術館、マニャン美術館にて実見調査を行った。加えて、当初の計画になかった、これまで把握されていなかったエスカリエの作品1点の現存を調査中に確認することができ、今後、作品の所在地へ行って実見調査を行う予定である。 一方で、渡仏調査時に起きた度重なるストライキの影響により、図書館の開館時間や鉄道機関の運行に多大な影響が出て、定期刊行物資料については、当初予定していた資料調査が遂行できなかった面もあり、自画像作品の現段階での考察はまとめたものの、総括的な考察は、翌年度に持ち越しとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では、エスカリエが手掛けた絵画、装飾パネル、陶磁器、扇子等多岐に亘る作品について未公開作を 中心に調査を行いその全容を掴んだ上で、国内外を問わず初めてとなる、エスカリエの包括研究を行うとともに、彼女の自画像作品を分析することによって、彼女が探求した新たな装飾表現や自己表象の在りようを明らかにすることを目的としている。 前者については、これまで現存が把握されていなかった作品の所在を特定できたため、その実見調査を行うとともに、引き続き先行研究で等閑に付されてきた作品の調査実施を図り、エスカリエの多岐に亘る制作の全貌を明らかにすることを目指す。後者については、初年度にストライキの影響で実施できなかった調査を行い、その結果を踏まえて総括的な考察を図る。 これら一連の考察をもとに、最終的には他の研究者にとってのエスカリエ研究の足場となるような成果のとりまとめを推進する。その内容には、これまで画像すら明らかでなかった作品を含む、エスカリエの制作の全容、それへの批評、エスカリエによる書簡等を盛り込む予定である。一連の考察を通じ、当時の女性芸術家が置 かれていた環境や、それまで絵画や彫刻に比べて「格下」扱いされていた陶磁器等の「地位」 向上を求める動きなど、旧来の伝統的な芸術観を揺さぶった、19世紀後半の芸術を取り巻く諸相を明らかにするとともに、国家から指名制作注文を受け時の著名な美術批評家か ら賞賛されるなど、当時から現代にかけ高い評価を受けてきたにもかかわらず、これまで主要テーマとして研究の俎上に上がることのなかった、エレオノール・エスカリエという一女性芸術家の掘り起こしも図ることとする。
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