2021 Fiscal Year Annual Research Report
無期刑受刑者の仮釈放の再考―日本と英国における展開の比較法的検討を通じて
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21J20055
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
戸田 彩織 一橋大学, 大学院法学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 無期刑 / 終身刑 / 仮釈放 / 社会復帰 / イギリス法 / ヨーロッパ人権裁判所 |
Outline of Annual Research Achievements |
2021年度は、(1)日本の現在の仮釈放制度の分析、(2)日本の無期刑をめぐる議論の整理・検討、(3)イギリスでの研究の準備作業を行った。 (1)まず、日本の仮釈放が現在どのように行われているのかを明確にするため、刑法上の仮釈放要件である「改悛の状」に関する理解と下級法令が定める仮釈放許可基準の変遷を辿り、過去との対比を試みた。これにより、現行規則の特徴を明確にするとともに、無期刑受刑者の仮釈放において実務上特に重要視されていると考えられる要素を明らかにした。以上の分析に加えて仮釈放許可基準をめぐる学説や実務家の議論を検討することで、無期刑受刑者の仮釈放においては、その犯罪行為の重大性をどのように考慮するかが重要な課題となることを明らかにした。 (2)次に、無期刑受刑者の仮釈放における犯罪行為の重大性について検討するため、無期刑の性質をめぐる議論を検討した。無期刑の性質については、犯罪行為の重大性に対する評価を中心とする「社会の感情」の是認という仮釈放許可基準との関係を考察し、研究報告を行った。また、現在導入が提言されている仮釈放のない終身刑についての議論を分析し、無期刑受刑者の仮釈放についての議論と仮釈放のない終身刑をめぐる議論との関係を整理した。(1)と(2)で得られた成果を基に、2022年度はイギリス法の検討を行う。 (3)2022年度に予定しているイギリスでの約1年間の調査・研究のため、無期刑・終身刑について国際的な研究を行っているイギリスのノッティンガム大学に受入れを依頼し、承諾を得た。また、現行の無期刑受刑者の仮釈放制度が確立するまでの歴史的展開を追い、終身服役命令を受けた無期刑受刑者についてのヨーロッパ人権裁判所の判例を調査するなど、イギリスでの研究のための準備を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2021年度は、日本における無期刑受刑者の仮釈放についての研究を計画していた。具体的には、旧刑法から現在までの無期刑受刑者の仮釈放をめぐる資料の収集、整理、検討、および刑事施設での実態調査を予定していた。このうち、刑事施設での実態調査は新型コロナウイルスの情勢を鑑みて断念せざるを得なかったが、文献調査は前項のとおりおおむね順調に進んでいる。特に無期刑の性質に関する議論については、犯罪行為の重大性に対する評価を中心とする「社会の感情」の是認という仮釈放許可基準との関係を考察し、公衆の感情や仮釈放制度に対する社会の信頼といった考慮要素が仮釈放判断において徐々に除かれていったイギリスでの無期刑受刑者の仮釈放制度の展開と対比しながら研究報告を行った。現在は研究会で受けた指摘をふまえて、日本法を再検討するとともに、イギリス法の分析を深めている。 2021年度は日本の無期刑受刑者の仮釈放に関する研究に重点をおいて取り組み、日本の問題状況を分析したことで、2022年度にイギリスで研究を進める際の視点を明確にすることができた。また、2022年に予定しているイギリスでの研究のための準備も、ウクライナ情勢などで影響を受けたものの、おおむね順調に進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
2022年度は、イギリスのノッティンガム大学に約1年間滞在し、イギリスの無期刑受刑者の仮釈放についての調査・研究を行う。具体的には、まず、イギリスにおいて無期刑受刑者の仮釈放制度が確立するまでの歴史的展開と現在の運用状況を分析し、その到達点と課題を明らかにする。また、日本における現在の無期刑受刑者の仮釈放実務においては、応報的処罰の必要性が重要な要素となっているため、英米において無期刑や終身刑受刑者の仮釈放について応報刑論の立場から検討する諸見解を参照する。さらに、人権の観点から無期刑や終身刑受刑者の仮釈放について論じる立場を検討するため、イギリスにおける終身服役命令に関するものを中心にヨーロッパ人権裁判所の判例を分析し、その判例理論を明らかにし、その議論の射程を検討する。これらの検討を進めるための資料収集にあたっては、受入先の大学図書館、大英図書館、英国国立文書館などを利用する。現在の運用状況を分析するための資料として、情勢を注視しつつ、イギリスの無期刑受刑者についての実態調査を行う。また、2022年度は国際学会において無期刑や終身刑をテーマとするセッションが開催される予定であるため、これらの国際学会や研究会に参加し、最新の議論についての知見を深める。
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