2022 Fiscal Year Annual Research Report
地方移住から地方定住への転換-移住者と地元住民の社会的葛藤と再移住の構造分析-
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22J12424
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
伊藤 将人 一橋大学, 大学院社会学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 地方移住 / 移住政策 / 地方定住 / Iターン / Uターン / 言説分析 / 政策的移住促進 / 都市-農村移住 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は日本における「地方移住」現象をめぐる政策の誕生や変遷を明らかにすること、政策の逆機能の有無や課題を明らかにすることを目的としてきた。 2022年度の研究実績としては、第一に長野県におけるIターン政策の誕生事例、熊本県のUターンアドバイザー制度事例という2つの地方自治体における移住政策誕生事例の社会的・政治的・経済的背景を明らかにした。具体的には両事例が1980年代以降の国家的産業開発方針であるテクノポリス政策との密接な関連の中で展開してきたことが特筆すべき発見として挙げられる。 第二に政府による2000年代後半の団塊の世代の移住促進、2009年度以降の地域おこし協力隊制度における移住促進論理、そして2014年度以降の地方創生における移住促進の正当化の社会的・政治的・経済的背景を明らかにした。具体的には政府が各時代の地域課題や社会課題、政策スローガンなどと戦略的に関連付けることで、従来は拡充拡大されてこなかった政策的移住促進というアイディアが正当化/正統化され2000年代以降急速に拡大したことを言説の分析から明らかにした点が特筆すべき発見として挙げられる。 また上記とは別に岩手県陸前高田市におけるインタビュー調査を行い、地域おこし協力隊制度を活用し移住した若年層の実態と課題を明らかにすることができた。 こうした政策をめぐる社会構造の解明は先行研究においてなされてこなかったものであり、本研究は言説への着目による政策的移住促進の誕生と変遷経緯を明らかにした点で新規性と独自性を有する実績を上げることができた。こうした研究成果は複数の学会において賞という形で評価を受けた。具体的には次のとおりである。①2022年12月開催 農村計画学会2022年度秋季大会優秀発表賞受賞、②2022年12月開催 国際公共経済学会代37回研究大会奨励賞受賞。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究は当初の計画以上に進展している。第一の理由としては、当初予定していた地方自治体と政府による政策的移住促進事例の分析が5割-7割程度完了したことが挙げられる。第二の理由としては、新聞や雑誌を主な対象としたマスメディア上における言説分析が当初の予定よりも順調に進み、資料の収集も進展していることが挙げられる。第三の理由としては、以上のような政策文書やマスメディアの分析と並行して、岩手県陸前高田市などにおけるフィールドワークとインタビュー調査を行い、その成果を論文として投稿できたことが挙げられる。 また研究結果のアウトリーチという点でも、2022年度は研究成果に関する学会発表を6回、学会以外での社会的・公的場での講演発表が5回と、ほぼ毎月研究結果を発表する機会を設けることができた。 以上を踏まえ、研究は当初の計画以上に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度の研究推進方策は大きく3つある。第一に2022年度に大きく進展した地方自治体と国による政策的移住促進事例の分析をさらに進める。具体的には、2022年度に資料を収集し分析を行った国土計画、食料・農業・農村白書、長野県のIターン事例、熊本県のUターンアドバイザー制度事例、団塊世代の移住促進事例、地域おこし協力隊制度事例、地方創生と移住促進事例について、さらに詳細な分析を行う。第二に10月以降を目処に、再度岩手県陸前高田市でインタビュー調査を行う予定である。この際には2022年度聞き取りができなかった政策を利用していない移住者についてのインタビュー調査を中心的に行う予定である。第三にアウトリーチとしては、2023年度も引き続き3回以上の学会報告を行うと同時に、2022年度の調査結果をまとめたものを現時点で4本論文として投稿する予定である。また2022年度末に投稿し査読結果待ちの3本があるため、これらについても同様に修正作業を行い、2023年度も複数の論文が公開されることを目指す。
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