2022 Fiscal Year Annual Research Report
タイ中部における高齢者リハビリテーションの人類学的研究
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22J10244
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Research Fellow |
岩下 夏岐 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | 高齢者 / リハビリテーション / タイ / 人類学的研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的はタイ都市部にある高齢者のための通所型リハビリテーション施設(以下、デイケア)において、利用者である高齢者やケアに関わるスタッフ、ボランティア、行政職員などのデイケアに集う人々によって作られるコミュニティが、リハビリテーションの効果にどのような影響をもたらしているのか、文化人類学的手法を用いて明らかにすることである。これまで医療システムの一つとして、治療関係を結ぶ二者という構図から分析されることの多かったリハビリテーションの現場を、コミュニティという概念を用いて、人々の社会関係や健康観、リハビリテーションに効果的なものとして共有される知識や技術に着目して分析するものである。 研究者はデイケアにおいて、助手として現地の活動を手伝いながら、1年間に亘って、フィールドワークを実施した。フィールドワークでは主に参与観察、聞き取り調査、インタビューを実施した。インタビューにおいては、医師1名、看護師2名、看護助手2名、ケアギバーと呼ばれるボランティアスタッフ8名、高齢者の家族4名、デイケアと共同研究を行う大学講師1名に半構造的面接を行った。 フィールド調査の結果、現況、次の点が明らかになった。まず高齢者は健康増進と共に、孤独感の解消を目的にデイケアを利用しており、デイケアは社会交流の場となっているという点である。次いで、高齢者とデイケアスタッフの関係は、時に擬似的な家族のような関係になる等、状況に応じて様々な関係性をもつという点である。デイケアに集う人々は、デイケアを「私たちの学校」、「私たちの家」と呼んでいた。こうした多様で親密な関係は時に、高齢者の健康増進とエンパワメントを促進するように思われる。引き続き、収集したデータの整理および分析を行い、論文執筆を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
タイでのフィールドワーク調査の際、コロナウィルス感染症の流行によってデイケアが一時、閉鎖するなどして、当初の研究計画に調整を加える必要があった。適宜、インタビュー実施時期を変更したり、オンラインツールを利用したりして対応し、概ね当初の計画どおりの日程で、フィールド調査を終えて帰国することができた。また今後、補足調査が必要な場合は、渡航に加えて、オンラインツールという手段もあわせて検討することが可能となり、研究協力者にも了承を得ることができたため、研究は概ね計画通りに進んでいると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度は収集したデータの整理および分析、論文執筆を行う。データの分析は、タイの省庁の高齢者や健康促進に関する施策や提言、タイの世間一般に周知される高齢者の健康像について等、社会的な文脈を加味しながら、調査データと研究の問いを往還しながら行っていく。また研究成果の一部を学会で発表し、研究者と意見を交わし、コメントを得るなどして、分析の焦点化および理論の深化につなげる。
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