2021 Fiscal Year Annual Research Report
長野県諏訪湖におけるリン・鉄循環の空間的・経時的な変化の評価
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21J21859
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
市川 雄貴 信州大学, 総合医理工学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 湖沼 / 富栄養化 / リン / 鉄 / 水質浄化 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年の諏訪湖では夏期に湖底の貧酸素化・還元化が生じ,底質中のリンが湖水へ溶出しやすい環境が形成されている.それにも関わらず,諏訪湖ではかつての夏期に見られた湖全体での水中リン濃度の上昇が見られなくなっている.これは湖底層で、酸化還元電位の変化によるリン循環が形成され,底層から表層へのリン回帰が発生しなくなったからであることが湖心における調査から定性的に示唆された.一方で、この近年の変化を正しく評価するためにはリンの溶出速度など定量的な実験が必要である.他にも諏訪湖全体におけるリン動態を理解する上では、ピーク時には諏訪湖の20%近くを覆う水草帯における動態やリンの収支、また水質浄化過程における湖環境の変化の解明が必要であると考え、室内実験、野外調査、及び長期観測データの整理を行った. 溶出実験では、狙い通りの環境を再現できなかったため、次年度への課題となった.ヒシ帯内外における調査から、ヒシ帯内部では外部よりも貧酸素かつ還元的な環境であり、水深の浅い箇所における貧酸素水塊の形成が確認され、水深の深い場所以外でもリンが溶出していることが示唆された.諏訪湖周辺の河川調査結果から諏訪湖におけるリンの収支を見積もったところ、夏期にはリンを湖内に保持する一方、秋期にはリンを放出する傾向が見られた.この現象は、夏期の湖底層におけるリン循環の形成と秋期における湖全体の循環の発生によるものであると考えられた.また、諏訪湖における40余年にわたる観測結果の解析から、諏訪湖では夏期の表層水温が増加の経年傾向を示し、水温成層が強固になってきていることが示唆され、底層のリン循環形成に影響を与えているのではないかと考えられた.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
昨年度(2021年度)中に諏訪湖の底層におけるリン循環の形成についての論文を完成させたかったが,実績の概要でも触れた通り,溶出実験にて条件設定が上手くいかなかったため遂行することができなかった.今年度の前半には論文投稿を行いたい. また,鉄濃度の測定に用いている原子吸光光度計(島津原子吸光/フレーム分光光度計AA-630-12),及び周辺機器が故障・不調をきたすことが頻繁に発生するため,こちらの測定も順調に進んでいない.現在,比色法による測定も検討している.
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Strategy for Future Research Activity |
諏訪湖にて採取された底質を用いて溶出実験を行い,現在の諏訪湖が貧酸素化した時の溶出速度を算出する.この結果から諏訪湖底層におけるリンの循環を定量的に評価するとともに,過去の溶出実験結果と比較することで諏訪湖底質のリン供給源としての能力の変化を評価し,「諏訪湖における無機的なリン動態の解明」としたい. 今後は「諏訪湖における有機的なリン動態の解明」を目指し,ホスファターゼ活性の測定を中心に調査研究を行う. 湖沼におけるホスファターゼはバクテリアや植物プランクトンが有機態リンを分解し,リンを獲得するために生産する酵素であり,湖沼のリン動態を探る上ではその活性を解明することが必要不可欠である.しかし,富栄養湖である諏訪湖におけるホスファターゼ活性を調査した研究はほとんど行われていない.そこで諏訪湖湖水を用いて植物プランクトン・バクテリア・溶存態のホスファターゼ活性を測定し,季節変動を解明する.また,リン濃度や水温・溶存酸素濃度といった環境要因等と比較することで活性値に影響を与える要因を明らかにする.かつての夏期の諏訪湖におけるリン濃度上昇は貧酸素化に伴うリン溶出によるものであると考えられている.しかし,かつての諏訪湖底層は現在よりも溶存酸素濃度が高い傾向であったことや,流入や一次生産により湖中に豊富な有機態リンが存在していたことから,リン濃度上昇にはホスファターゼによる有機態リン分解の寄与も考えられる.そこで,現在でも夏期にアオコが発生している千鹿頭池における調査や,かつての諏訪湖を再現した培養実験におけるホスファターゼ活性の調査から,水質改善以前の諏訪湖におけるホスファターゼ活性の解明を目指す. また,ほかにも水草帯における調査やリン溶解菌数の調査を行い,諏訪湖における生物のリン動態への寄与を明らかにしたい.
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