2021 Fiscal Year Annual Research Report
The Philosophy and Reality of Tributary system in the Song Dynasty.
Project/Area Number |
21J00240
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
遠藤 総史 名古屋大学, 人文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 宋朝 / 東南アジア史 / 海域アジア史 / 朝貢 / 外交 / 外交文書 / 翻訳 / 海商 |
Outline of Annual Research Achievements |
当年度では、主に「宋代の対外関係における外交文書の代筆」と「宋・東南アジアの関係史」という二つのテーマを主軸に研究を行ってきた。 まず「宋代の対外関係における外交文書の代筆」については、宋代の朝貢において宋官僚が外国からの外交文書を代筆する事例を検証し、そのような代筆行為が宋朝の文書行政の中で組織的に行われていた可能性を指摘した。それにより、必ずしも朝貢という理念が共有されていない非対称な対外関係が、代筆という行為を通して朝貢関係に読み替えられていくことを明らかにした。これについては「第23回七隈史学会大会」(2021年9月25日)で研究報告を行い、そこでの意見をもとに内容の再検討を行っている。 次に、当年度では「朝貢の上表文における文字・言語」というテーマで、宋代朝貢の外交文書に用いられていた「蕃字」の検討を行うために、朝貢のハブ機能を持つ占城(チャンパー/中部ベトナム)に注目して、ベトナムでの調査を行う予定であった。しかし、コロナ禍の影響により現地調査機関での受け入れが困難であったため、テーマを変更し『宋代とは何か(アジア遊学277)』(勉誠出版、2022年11月)で発表を予定している「宋・東南アジア地域の関係史」についてのまとめを行った。『宋代とは何か(アジア遊学277)』は、多角的視点で宋代中国を捉えなおし、従来の通説とは異なる新たな時代像を提示することを試みた著作である。自身は、東南アジアを中心とする南の海域世界と宋朝との「外交」に関する近年の研究動向をまとめた。その上で、宋朝の海域世界に対する認識の在り方や、海商などの朝貢の媒介者から宋官僚までもが行う外交文書の翻訳行為といった最近の応募者の諸論考を加味し、冊封・朝貢を中心とする宋朝と南の海域世界との外交の実態像を提示した。これについては、当年度1月に初稿を提出しており、最終的に2022年度11月に出版されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本来、当年度では「宋代の対外関係における外交文書の代筆」と「朝貢の上表文における文字・言語」という二つのテーマを中心に研究を行う予定であった。 このうち「宋代の対外関係における外交文書の代筆」については、当年度内に研究内容をまとめ、研究会・学会等で報告を行った後に論文としてまとめる予定だった。しかし研究報告の段階で修正すべき箇所が見つかったため、この修正に注力することになった。修正そのものは十分に対応可能であり、次年度以降には論文として発表可能であると考えられ、研究そのものは順調に進展していると言える。 一方で「朝貢の上表文における文字・言語」については、史料調査が必要であり、当初はベトナムでの史料調査を予定していたが、コロナ禍の影響で現地研究機関での受け入れが困難な状況にあった。そのため当研究は、日本国内で入手可能な史料の分析にとどまらざるを得なかった。そのため、当研究について言えばやや遅れていると言わざるを得ない。しかし、本来「朝貢の上表文における文字・言語」に費やす予定だった時間を、「宋・東南アジア地域の関係史」(『宋代とは何か(アジア遊学277)』、勉誠出版、2022年11月)の執筆に充てることができた。そのため総合的に見れば、全体としての研究はおおむね順調に進展していると言うことができる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、「宋代冊封における内的論理(理念)の変化」と「宋代の対外関係における外交文書の代筆」、「朝貢の上表文における文字・言語」という三つのテーマで研究を遂行する予定である。 まず「宋代冊封における内的論理(理念)の変化」については、宋徽宗期(1100~1126年)に起きる冊封対象の拡大に注目し、宋神宗期(1067~1085年)から宋徽宗期にかけて行われた元豊・政和の官制改革との関連を分析する。それによって、この冊封対象の拡大の背景に宋朝の内部における「統一」の形への認識の変化があり、それまでは将来的な統一を前提にした未統一の節度使という位置づけであった冊封対象が、その前提が無くなり名実ともに外国として扱われるようになるという変化があったことを明らかにしようと考える。具体的な遂行計画としては、当テーマは以前から研究会・学会等で報告を行ってきたものであるため、これを文章化し『五代十国の治(仮)』(アジア遊学)で発表する予定である。 一方で、「宋代の対外関係における外交文書の代筆」と「朝貢の上表文における文字・言語」については昨年度に引き続き、同様の方針で研究を遂行する予定である。このうち「宋代の対外関係における外交文書の代筆」については、昨年度までの研究で得られた知見をもとに文章化し、今年度前半には国内査読誌で発表したいと考えている。また「朝貢の上表文における文字・言語」については、本年度の夏に現地調査に入り、そこで得られた知見をもとに研究会・学会等で報告を行おうと考えている。これに関しては、年度末までに文章化し国内査読誌に投稿しようと考えている。
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