2022 Fiscal Year Annual Research Report
プロトン共役電子移動の特性解明を実現する電子状態計算法の核座標微分開発
Project/Area Number |
21J20614
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
飯野 翼 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 密度行列繰り込み郡 / 多参照理論 / 電子状態理論 / 電子移動 / Marcus理論 |
Outline of Annual Research Achievements |
プロトン移動と電子移動が協奏的に生じる化学反応はプロトン共役電子移動(PCET)反応と呼ばれ,本反応を利用した新規機能性分子の開発や人工光合成への応用が期待されている。理論的な側面から言えば,本反応は電子状態が複雑であり,大規模活性空間における全電子配置を考慮し,かつ多状態の計算も可能な波動関数理論SA-DMRG-CASSCF法をベースとした反応解析が望まれている。当該年度における研究では,本手法をPCET反応を始めとした化学反応の解析に適用できるようにするため,SA-DMRG-CASSCF法の解析的エネルギー核座標微分の理論開発を行なった(J. Chem. Phys. 2023, 158, 054107)。この解析的エネルギー核座標微分を利用することで,SA-DMRG-CASSCF法レベルでの分子構造最適化が中規模程度のパイ共役系分子であっても数日程度で実現可能となった。 また,内部転換や項間交差の定量的な速度定数計算が可能であるThermal Vibration Correlation Function(TVCF)法をベースとして,PCET反応の速度定数計算の理論開発も行なった。速度定数計算における電子カップリングと非断熱カップリングをともに取り込むための理論定式化,およびMarcus理論との関係性の新規定式化に取り組んだ。後者に関しては一次元トイモデルに対して定式化の数値検証を実施したところ,既存の定式化と同精度の数値解を与え,本理論の妥当性を示すことに成功した。さらに,これまでTVCF法では考慮されてこなかった溶媒効果を取り込む方法についても検討し,その理論構築にも成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初目標としていたSA-DMRG-CASSCF法の解析的エネルギー核座標微分の理論開発に成功した。また,本開発における副次的な産物として,これまで明らかにされてこなかったSA-DMRG-CASSCF法における波動関数の性質もいくつか判明しており,これらは波動関数理論の理論開発コミュニティに対して重要な知見を与えるものと考えられる。しかしもう一つの目標であったXMS-DMRG-CASPT2の解析的エネルギー核座標微分に関しては技術的困難が存在し,本研究課題の時間的制約を考慮して開発を保留することにした。 一方でTVCF法をベースとしたPCETの速度定数計算法の理論開発に関しては,理論的枠組みの構築とプログラム開発に,当初予定していたよりも進展があった。特にMarcus理論を十分な数値精度で再現可能な新規定式化は興味深く,本定式化を応用しPCETのトンネリング効果を定量的に解析することを検討している。 以上の観点から,本研究の達成度は「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
2023年度は引き続きTVCF法をベースとしたPCETの速度定数計算法の理論開発およびプログラム実装を進める。同時に実際のPCET反応に対して適用し理論の精度検証や物性解析を実施する。また,溶媒効果の影響や電子カップリングのHerzberg-Teller効果も検証予定である。
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Research Products
(2 results)