2022 Fiscal Year Annual Research Report
Gdf11の発現制御機構の違いに基づく後肢の位置の多様性を生み出す分子機構の解明
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21J22861
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
齋藤 成治 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 形態形成 / エンハンサー / 進化発生生物学 |
Outline of Annual Research Achievements |
脊椎動物の中で、椎骨と手足である四肢は、我々ヒトを含む四肢動物に特徴的な構造である。椎骨は体の前後軸に沿って位置特異的な形態を持ち、その中の仙椎には、後肢が骨盤を介して接続するという共通の特徴を持つ。この仙椎-後肢ユニットは体の前後軸に沿って種に固有な位置に形成される。種によって異なる仙椎-後肢ユニットの位置は Gdf11遺伝子が発現を開始したタイミングによって決まることが報告されている。種によって異なるGdf11の発現開始タイミングが四肢動物種間の後肢の位置の違いを生み出すと考えられることから、後肢の位置の異なる動物種におけるGdf11の発現制御メカニズムの解明と比較を行うことで、種間の後肢の位置の多様性を生み出した分子メカニズムの解明を目的とし、解析を行った。 遺伝子の発現はエンハンサーによって時空間的に制御されている。本年度までに種間で保存されたGdf11のエンハンサーである領域bを同定した。昨年度までは、領域bの機能解析を行ってきたが、本年度は領域bの近傍に存在するが、エンハンサーとしての活性を持たない種間で高度に保存された領域aとcに着目し、この3つの領域をノックアウトしたマウスを作製し、機能解析を行った。同時に種間で共通のGdf11の上流因子候補を探索を行い、候補としてFGFシグナルとWntシグナルに着目した。その結果、ニワトリ胚において、FGFシグナルはGdf11の発現を負に制御し、WntシグナルはGdf11の発現には必要だが十分ではないことが示唆された。本研究により、Gdf11の種間で共通なエンハンサーとGdf11の発現を制御する因子がさらに明らにされ、Gdf11の発現は一つのエンハンサーやひとつの転写因子によって制御されるわけではなく、複数の因子が相互作用し、制御していることを改めて支持する結果を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
後肢の位置決定に必須なGdf11遺伝子の周囲には、四肢動物種間で保存された領域a, b, cの3つの領域が存在していた。昨年度までにこの中で唯一エンハンサーとしての活性を持っていた領域bの機能解析を行った。本年度は領域bの近傍に存在する領域a, cの機能解析を行うため、領域a, b, cを含む領域をノックアウトしたマウスを作製し、内在性のGdf11の発現量とGdf11の下流の遺伝子であるHoxd11の発現量の解析と、ニワトリ胚を用いて、b領域のエンハンサー活性と内在性のGdf11の発現を制御する上流因子の同定を行った。 ノックアウトマウスを用いた実験の結果、領域abcノックアウトマウスでは、E8.5, E9.5胚における内在性のGdf11の発現量が減少し、E9.5胚におけるHoxd11の発現量も減少していた。またGdf11の発現量の減少は領域bノックアウトマウスよりも大きかった。これらの結果から、領域abc内にはGdf11のエンハンサーが存在し、領域bと協調してGdf11の発現を制御していることが示唆された。 領域abc内に存在した転写因子結合予測配列から、上流因子候補として、FGFとWntシグナルを見出した。本年度はFGFシグナルとWntシグナルがGdf11の発現と領域abcのエンハンサー活性を制御するかどうかを解析しようと試みた。その結果、FGFシグナルはGdf11の発現を負に制御し、WntシグナルはGdf11の発現に必要だが、十分でないことが示唆された。以上より、本年度はGdf11の遺伝子座周囲にある種間で保存された領域が、Gdf11の発現に関与していることを明らかにし、Gdf11の上流因子をさらに同定することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、Gdf11の上流因子候補のうち、FGFシグナルとWntシグナルが領域abcのエンハンサー活性を制御するかどうかを調べるため、ニワトリ胚を用いた解析を行っている。具体的には、FGFとWntシグナル量を変化させた際の領域abcのエンハンサー活性の変化をレポーターアッセイで解析する予定である。その結果を得たのち、上述した領域abcが内在性のGdf11の発現を制御していること、FGFシグナルとWntシグナルがGdf11の上流因子であると示唆されたことをまとめて、論文化する予定である。また昨年度から本年度にかけて継続して行っていた領域bの機能解析も論文化し、来年度投稿予定である。以上のkんきゅう結果から、Gdf11遺伝子座周囲に存在する種を超えて保存された領域の機能解析が終了し、種間で共通のエンハンサーの解析が完了する予定である。しかしながら、種間で保存された領域はa, b, cの3領域しかないこと、領域abcノックアウトマウスの表現型は、Gdf11ノックアウトマウスの表現型を模倣できないことから、Gdf11の発現を制御する種特異的なエンハンサーの存在が示唆される。そのため、種特異的なエンハンサーの候補領域を探索するため、マウス、ニワトリ、スッポン、シマヘビの初期胚を用いてATAC-seqを行い、その結果を次世代シーケンサーを用いて解析した。その結果をもとに、エンハンサー候補領域を選定した。マウス以外ではエンハンサーのノックアウト個体を作製できないことから、ニワトリ、スッポン、シマヘビではその種を用いたエンハンサーの機能解析ができない。さらにGdf11のプロモーター領域は同定されていない。そのため、選定した候補領域の中から活性があった領域に対して、in vivoで領域bと候補領域が近接しているかどうかを3Cを用いて解析する予定である。
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Research Products
(3 results)