2022 Fiscal Year Annual Research Report
ベイズ最適化を駆使したペプチドのワンフロー合成法の開発
Project/Area Number |
22J12988
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Research Fellow |
杉澤 直斗 名古屋大学, 創薬科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | マイクロフロー / アミノ酸-N-カルボン酸無水物 / ペプチド / 酸塩化物 |
Outline of Annual Research Achievements |
一般的なペプチド鎖伸長は、アミノ基を保護したアミノ酸の活性化体とカルボキシル基を保護したアミノ酸またはペプチドとの縮合と脱保護工程を繰り返す。このため多工程を要し、全工程の約半数を脱保護工程が占め、多量の縮合剤を要するために多量の廃棄物を排出することが問題となっている。アミノ酸-N-カルボン酸無水物(NCA)は求核性を示す窒素原子と求電子性を示すカルボニル基を併せもつ化合物であり、縮合の際に二酸化炭素のみしか排出しない。もしもNCAを利用してペプチド鎖伸長できれば理想的であるが、NCAは塩基性条件下で容易に自己重合反応を起こすため、ペプチド鎖伸長に利用された例は限定されている。この問題に対して、マイクロフロー合成法の高速混合を駆使することで、NCA由来の副反応を回避し、短工程かつ少量の廃棄物しか排出しない汎用的なペプチド鎖伸長法を開発することを目的とし、研究に取り組んだ。 まず、マイクロフロー合成法を利用して反応系中でアミノ基を保護したアミノ酸から酸塩化物を短時間、温和な条件下で調製する条件を見出した。続いて、調製した酸塩化物とNCAとのアミド化反応も短時間、温和な条件下で達成した。これにより、求電子性を示すカルボニル基を保持したジペプチド等価体を合成できた。そして、ジペプチド等価体に対してカルボキシル基を保護したアミノ酸の導入も短時間、温和な条件下で可能にし、一挙にペプチド鎖の2残基伸長を実現した。開発したフロー合成法は、バッチ合成法と比較すると15%程度収率が高くなることが分かった。これは、バッチ合成法では混合速度が不十分であるために、副反応の進行を抑制できなかったためだと考えられる。 以上のことから、マイクロフロー合成法の高速混合を駆使することで、NCAを利用したペプチド鎖の2残基高速伸長法を開発することに成功し、上述した一般的なペプチド鎖伸長の課題を解決できた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
アミノ酸-N-カルボン酸無水物(NCA)の求核性と求電子性のバランスを調査するため、NCAを求核剤として酸無水物または酸塩化物と塩基存在下で反応させたところ、酸無水物では望むアミド化反応と望まないNCAの自己重合反応が競合して低収率で目的物を与えたのに対し、酸塩化物ではN,N-ジイソプロピルエチルアミンとN-メチルイミダゾールの2種類の塩基存在下で20 ℃、10秒以内に定量的に望むアミド化反応が進行することが分かった。 続いて、酸塩化物は不安定であるため、市販されており、長期保存が可能なアミノ基を保護したアミノ酸から速やかに酸塩化物を反応系中で調製する条件を検討したところ、N,N-ジイソプロピルエチルアミン存在下で20 ℃、10秒以内に定量的に調製できることが分かった。 これらの結果に基づき、アミノ基を保護したアミノ酸の迅速な酸塩化物形成と、続くNCAとのアミド化反応、カルボキシル基を保護したアミノ酸とのアミド化反応の3工程を一挙に実施したところ、望むトリペプチドを20 ℃、2分以内に高収率に合成できた。また、本手法はカラム精製を必要とせず、分液・再結晶操作のみで高純度なトリペプチドを得ることができた。さらにスケールアップ合成も可能であり、14分30秒間フロー反応を実施することで、望むトリペプチドを2.98 g得ることができた。 本手法を利用して基質適用範囲を検討したところ、多様な官能基を含む計17種類のトリペプチドを良好な収率から高収率で合成できた。また、エピメリ化しやすいアミノ酸であるシステインを含む場合でもエピメリ化が進行していないことがHPLC-UV解析から分かった。さらに、本手法を繰り返すことでペンタペプチドの側鎖保護Stellarin G前駆体の合成にも成功した。 以上のことから、2022年度の研究実施計画で記載した内容を全て実現できたため、(1)を選択した。
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Strategy for Future Research Activity |
見出したアミノ酸-N-カルボン酸無水物(NCA)を用いた短時間、温和な条件下でのペプチド鎖の2残基伸長の反応条件に基づき、オクタペプチドのBeefy Meaty Peptide(H-Lys-Gly-Asp-Glu-Glu-Ser-Leu-Ala-OH)の全合成を検討する。まず、Cbz- Ser(t-Bu)-OHから反応系中で酸塩化物を調製し、H-Leu-NCAを反応させてジペプチド等価体(Cbz-Ser(t-Bu)-Leu-NCA)に変換後、H-Ala-Ot-Buを導入してトリペプチド(Cbz-Ser(Ot-Bu)-Leu-Ala-Ot-Bu)を得る。トリペプチドのCbz基をPd存在下、水素添加で除去し、Cbz-Glu(Ot-Bu)-OHとH-Glu(Ot-Bu)-NCAからなるジペプチド等価体と反応させることで、ペンタペプチドを得る。Cbz基を除去したペンタペプチドとジペプチド等価体(Cbz-Gly-Asp(Ot-Bu)-NCA)と反応させてヘプタペプチドを合成し、最後にBoc-Lys(Boc)-OHとCbz基を除去したヘプタペプチドを混合炭酸無水物法で連結し、保護基を全て除去することで、オクタペプチドを合成する。本合成においてカラム精製は最終工程のみとし、それまでは再結晶操作のみでペプチド鎖を伸長する。 NCAは不安定で長期保存が困難であるため、市販されており、長期保存可能なアミノ基を保護したアミノ酸から反応系中でNCAを調製し、続く酸塩化物とのアミド化反応、カルボキシル基を保護したアミノ酸とのアミド化反応によりワンフローでトリペプチドを合成する。まず、アミノ基を保護したアミノ酸としてBoc-フェニルアラニンを使用し、塩基存在下で塩化チオニルと反応させることで迅速にNCAを調製できるのか検討する。続いて、NCAの迅速な調製を含めたワンフロートリペプチド合成を検討する。
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