2022 Fiscal Year Annual Research Report
ドレス状態を考慮した場の量子論による、検証可能なメモリー効果の解析
Project/Area Number |
22J14381
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
古郡 秀雄 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ドレス状態形式 / 漸近対称性 / メモリー効果 / 赤外発散 / 場の量子論 / 散乱問題 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度はまず本研究に用いるドレス状態形式の、数学的な側面からの妥当性について検証を行った。このドレス状態形式では量子電磁気学の散乱問題に対して散乱行列が発散なく定義でき、赤外三角関係から期待される通りに、軟光子のドレス状態は漸近対称性とメモリー効果を記述することがわかっている。このような意味で物理的な側面からの妥当性は支持されるが、数学的な側面からの妥当性についての理解は不十分であった。そこで非相対論的な量子力学において、長距離相互作用の存在下でも散乱問題が数学的に定義できることで知られるDollard形式と本研究のドレス状態形式を見比べ、類似性と差異を検討した。結果として、系のエネルギースケールとドレス状態形式で導入する時間スケールの間にある関係が成り立てばDollard形式と一致することがわかった。したがって本研究のドレス状態形式は、散乱問題の設定として少なくとも量子力学の枠組みでは数学的にも良設定であると言える。 次にS.Weinbergの無質量スピン2粒子の理論を基にして、軟重力子を自由度として含む線形重力場の理論を構成し、軟重力子が理論に与える影響について検討した。本研究のドレス状態形式では時間スケールの導入によってLorentz対称性を見かけ上破るが、軟重力子のドレス状態に備わる漸近対称性がLorentz対称性を回復することを明らかにした。また、このスピン2粒子が時空の計量の意味を持つ場合を考え、量子電磁気学の場合と同様にメモリー効果が計算可能であることを示した。将来の実験・観測に対し現実的な予言を与えるための定量的な研究は来年度の課題として残るが、この結果は本研究が計画に沿って目的に近づいていることを知らせる試金石と見做せるだろう。 上記の結果の一部は研究会で発表し、博士論文にも記載したが、学会誌に提出するための論文は現在執筆中であり、来年度の課題として残った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初の計画では、今年度すぐに量子電磁気学(QED)におけるメモリー効果に対する定量的な予言を与える研究を行う予定だったが、用いるドレス状態形式の基盤を固めることを優先したため、そこまでの研究には至らなかった。 一方で、QEDのメモリー効果の研究の後に行う予定であった線形重力理論とそのドレス状態形式についての研究は進んだため、全体の計画として大幅に遅れているわけではない。
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Strategy for Future Research Activity |
まずは昨年度に行った線形重力理論の研究結果についてまとめて論文として公表する。 また、当初の予定通りQEDのメモリー効果に対する定量的な予言を与えるために、実験・観測に結びつけるための適切なセットアップを考えて解析する。 次に、軟重力子を含む線形重力理論でのメモリー効果についてQEDの場合と同様に研究を行う。 その後、光子を物質として含む線形重力理論でのメモリー効果について検討する。 並行して軟重力子の理論を非線形に拡張する研究を行う。この研究が進めば、非線形重力メモリー効果についての解析を行う。
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