2022 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
22J15862
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
周戸 大季 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2022-04-22 – 2024-03-31
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Keywords | ナノベルト / フルオロシクロパラフェニレン / シクロパラフェニレン / カーボンナノリング |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノベルト類は平面構造を再安定とするベンゼン環が筒状構造を形成することで分子内に大きなひずみエネルギーが生じるが、ひずみの大きな分子の合成は現代の分子合成技術を駆使しても未だ困難なことが多い。シクロパラフェニレン(CPP)は2000年代終盤に初めて合成が達成されたカーボンナノチューブの部分構造のひとつであるが、最近我々は全てまたは半数がフッ素基で均一に置換されたF-CPPの合成を達成している。このフッ素置換基ならではの求電子的性質を活かし、芳香族求核置換反応を利用することでF-CPPをプラットフォームをしたナノベルト類の合成を考案し、精密かつ効率的に有機合成することを目標としてきた。 本研究員は半数がすべてのベンゼン環のオルト位でフッ素置換されたF-CPPに対して、ピロールが効率的に芳香族求核置換反応することを見出しピロリルCPPが得られることを明らかとした。ピロリルCPPは16ヶ所の置換基を一挙に変換することによって得られ、NMRからは非常に混み合った構造的特徴が示唆された。単結晶X線構造解析によって全てが置換された構造であることを明らかとした。 さらに、上記と同様のF-CPPに対してフッ素基による硫黄架橋反応を施すことによって一挙にベルト状構造へと変換が進行した。本手法で得られた化合物は、CPPを硫黄架橋した構造かつシクロチオフェニレンをエチレン架橋した構造とみなすこともできる構造を有しており、チオフェンベルトと名付けた。チオフェンベルトはこれまでのヘテロ原子含有ナノベルトとは異なって円錐を輪切りにした形状、すなわち円錐台構造を有している。また、本化合物は単結晶X線構造解析によってカラムナー積層することが明らかとなった。吸収および蛍光スペクトルの解析によって、CPPを架橋して剛直にしたことに起因するストークスシフトの減少や振動構造が観測された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究員はF-CPPを基軸とした多点一挙変換反応によって、これまで合成法の確率が困難であったナノベルト類の合成の開拓に大きな貢献を果たしてきたと考えられる。F-CPPにおける芳香族求核置換反応の可能性をピロリルCPP合成によって見出すとともに、構造的特徴まで考察している。さらに、F-CPPに対する硫黄架橋反応を用いたチオフェンベルトの合成によって短工程でナノベルトが得られることを証明し、その結晶構造から特異なカラムナーパッキングを明らかにした。これは今後のナノベルト類の合成および性質解明に重要な設計指針となることが期待される。さらに本研究員はこれらの化合物の測定のみならず、量子化学計算を併用することで構造的な変化とそれに起因するひずみエネルギーの影響まで精査した。 以上の結果を踏まえて、本研究は期待通り進展したと評価している。
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Strategy for Future Research Activity |
引き続き、F-CPPの変換を基軸にナノベルト類の合成に取り組む。具体的には、CPPにおける水素原子の半分がフッ素原子に置換されたF-CPPに対し、アルキニルリチウムを用いた芳香族求核置換反応を行うことで、エチニル基を置換基にもつCPPを合成する。これに対し、塩化白金によるアルキン環化反応を行いVogtleベルトを合成する。また、CPPにおける水素原子の全てがフッ素原子に置換されたF-CPPに対してアルケニルリチウムを作用させ、グラブス触媒によるオレフィンメタセシス反応を用いることでもVogtleベルトを合成することができると考えている。 本年度の研究で新たに合成したチオフェンベルトの化学をされに発展させるため機能開拓や分析を行う。特異なパッキング構造を有することが明らかになったため、溶媒依存的にどのようにパッキングが変化するかを調べる。さらにチオフェンベルトの基盤への蒸着等を行い、STM等で観察することで本分子の構造的性質を明らかにする。また、チオフェンベルトは出発原料によって構造的に異なる分子群が得られることが期待されるため、新たなF-CPPの設計と合成を目指す。カルコゲンの違いによる性質変化も合わせて見出す予定である。
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