2021 Fiscal Year Annual Research Report
背側縫線核セロトニン神経の網羅的遺伝子解析によるうつ病の分子メカニズム解明
Project/Area Number |
21J21091
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
安藤 千紘 京都大学, 薬学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | うつ病 / セロトニン神経 / 網羅的遺伝子発現変動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、うつ病態形成に重要な役割を担うことが示唆される背側縫線核 (DRN) セロトニン神経活動変化の背景にある分子メカニズムに着目し、この神経におけるうつ病態時や抗うつ薬投与時の遺伝子発現変動を網羅的に解析することにより、未解明のうつ病発症メカニズムや抗うつ薬の作用機序を明らかにすることを目的としている。本年度は、申請時にすでに確立済みであった翻訳中のmRNAを細胞種特異的に単離できるTranslating Ribosome Affinity Purification (TRAP) という手法を用いて、抗うつ薬長期投与マウス、うつ病態モデルマウスにおけるDRNセロトニン神経の遺伝子発現変動を網羅的に解析した。遺伝子発現変動解析で同定された、抗うつ薬投与で発現低下かつうつ病態モデルで発現上昇する遺伝子49個の中から、セロトニン神経で特に豊富に発現していたS100a10という遺伝子に着目し、この遺伝子を背側縫線核セロトニン神経特異的にノックダウンしたところ、尾懸垂試験においてノックダウン群の無動時間が有意に減少した。この結果から、この遺伝子が背側縫線核セロトニン神経においてうつ病態の形成に重要な役割を担っていることが示唆された。さらに下流のメカニズムとして、S100a10との相互作用により膜上発現が促進することが知られているセロトニン1B受容体に着目し、この受容体を同様にセロトニン神経特異的にノックダウンしたところ、やはり尾懸垂試験で抗うつ薬様効果が見られたことから、S100a10はセロトニン神経膜上の1B受容体量を調節することでセロトニン神経伝達の変化とそれに伴う抗うつ効果を引き起こす可能性が示唆された。これらの知見は、抗うつ薬投与による抗うつ効果のメカニズムの一端を明らかにするものであると考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
現時点で、本研究の進捗状況は概ね順調であると考えている。今年度までに、到達目標であったTRAPを用いたうつ病の分子メカニズムに関わる候補遺伝子の絞り込みを終え、実際にウイルスベクターを活用したノックダウン検討や免疫組織化学的検討によりS100a10という遺伝子が背側縫線核セロトニン神経におけるうつ病態発現メカニズムに関与する可能性を見出せている。さらに、S100a10の下流メカニズムについても、セロトニン1B受容体との関連性を示唆する検討結果を見出せており、当初の到達目標より早く進捗している。一方で、もう一つの今年度到達目標であった抗うつ効果のみに関与するセロトニン神経回路の特定には至っていないため、来年度以降検討していきたいと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度の研究結果から、抗うつ薬投与時には背側縫線核セロトニン神経におけるS100a10の発現低下に伴う神経膜上のセロトニン1B受容体減少が起こり、自己抑制機能が低下することでセロトニン神経活動性の増大と抗うつ効果の発現がもたらされる可能性が示唆されている。来年度もこのS100a10に着目し、抗うつ薬投与時・うつ病態モデル時の膜上のセロトニン1B受容体量変化について、膜画分特異的なタンパク発現検討またはオートラジオグラフィーを用いたリガンド結合量の検討を行ってこの想定下流メカニズムを詳細に解明するとともに、S100a10の発現変化を制御する上流のメカニズム検討も行う予定である。また、研究計画において、光遺伝学の手法を用いて多数の投射先を持つセロトニン神経の中で抗うつ作用のみに関与する神経回路を明らかにし、その回路特異的なTRAPを行うことも目標としているため、そちらについても検討を進めていく予定である。
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