2021 Fiscal Year Annual Research Report
母性因子と胚性因子による初期胚の発生と分化制御機構の解明
Project/Area Number |
21J21840
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Allocation Type | Single-year Grants |
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
山本 琢人 京都大学, 農学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2021-04-28 – 2024-03-31
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Keywords | 母性因子 / 胚性ゲノムの活性化 / 受精卵 / エレクトロポレーション / Pwp1 / Myc / GV期卵母細胞 / 卵丘細胞 |
Outline of Annual Research Achievements |
哺乳類の初期胚発生における母性因子の影響を検討するため、本研究ではまずエレクトロポレーション法を試みることでGV期の卵母細胞に対し、発生に悪影響を与えることなくsiRNAを安定して導入する手法の開発を試みた。初期胚発生における遺伝子の機能について調べる場合は、siRNAを用いて標的となる遺伝子のmRNAを分解することでノックダウンを行い、機能を阻害した場合の影響を調べる手法は一般的だが、この手法はGV期卵母細胞に対して用いることは困難であった。この理由は、GVの卵母細胞は受精卵とは異なり、卵丘細胞によって覆われているため、顕微注入によってsiRNAを導入するには卵丘細胞を除去する等の特殊な操作が必要であるからである。しかしながら、卵丘細胞を除去した場合や卵丘細胞が付着していない卵母細胞を使用した場合は、通常の卵母細胞に比べ受精率や発生率が低下していることが確認された。そこで本研究ではエレクトロポレーション法を用いることで、卵丘細胞を除去することなくGV期卵母細胞へsiRNAを導入する手法を試みた。 また、哺乳類の初期胚発生における胚性因子の影響の検討について、本研究ではPwp1とMycファミリー遺伝子に注目している。これまでの研究によってマウス初期胚においてPwp1の発現を抑制した場合は胚盤胞期への発生率が低下すること、およびMycファミリー遺伝子の転写因子としての機能を阻害した場合は2細胞期から4細胞期への発生が停止することが明らかとなり、それぞれの遺伝子が初期胚発生において重要な役割を担っていることが示唆された。 これらの研究成果を国内学会(日本繁殖生物学会、日本生殖医学会学術講演会・総会、日本分子生物学会年会)と国際学会(Society of the Study of Reproduction:SSR)において発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
GV期の卵母細胞は受精卵とは異なり卵丘細胞によって覆われているため、これまではsiRNAの導入による遺伝子発現の抑制は困難であったが、本研究によって簡便なsiRNAの導入手法の確立に成功した。本手法は受精率や発生率を低下させることはなく、またエレクトロポレーション法は従来の顕微注入法とは異なり、高価なマイクロマニピュレーターや専門的な技術を必要としないため、今後は本研究による手法が普及することで容易に受精前後の遺伝子の機能解析が行われることが期待できる。 Pwp1は大規模な胚性ゲノムの活性化が起こる2細胞期後期に発現する遺伝子であるが、初期胚発生における機能は調べられていなかった。Pwp1を標的としたsiRNAを1細胞期胚へと導入し機能を阻害した場合、胚盤胞期への発生率が低下した。このことから、Pwp1は胚性因子として受精後に発現し、その後の発生に重要な役割を持つことが明らかとなった。 Mycはマウス初期胚では2細胞期に特異的な転写を示しており、Mycファミリー遺伝子の機能を阻害する阻害剤を用いた場合は、2細胞期で発生が停止した。さらに、4細胞期以降に同様の阻害剤処理を行った場合は発生率の低下は見られず、通常通り胚盤胞へと発生は進行した。これらのことから、マウス初期胚発生においてMycファミリー遺伝子は2細胞期から4細胞期への発生に限定して必要であることが明らかとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
エレクトロポレーション法を試みることでGV期の卵母細胞に対し、発生に悪影響を与えることなくsiRNAを安定して導入する手法の開発に成功したため、今後はこの手法を用いて、Mater, Zar1, Brg1, Npm2等の母性効果遺伝子を標的としたsiRNAをGV期卵母細胞へと導入し、ノックダウンすることでその機能解析を行う。また、GV期卵母細胞から卵丘細胞を除去した場合は受精率や発生率が著しく低下することが確認されたため、卵丘細胞が卵母細胞中の母性因子へ与える影響を次世代シーケンサーを用いたRNA-seq解析によって検討する。 胚性因子については、Pwp1に対するsiRNAをマウス初期胚へ導入しノックダウンすることで胚盤胞期への発生率が有意に低下することが明らかとなったため、今後はPwp1のsiRNA処理胚と対照区について胚盤胞期までの発生の最初期における分化への影響に注目して比較、解析を行う。また、Mycファミリー遺伝子についてはsiRNAでは十分な抑制ができなかったため、阻害剤によりタンパク質の機能を阻害した結果、発生は2細胞期に停止した。4細胞期以降のMycファミリー遺伝子の機能を阻害剤によって阻害した場合は通常通り胚盤胞へと発生は進行したことから、今後はMycファミリー遺伝子が2細胞期後期に起こる大規模な胚性ゲノムの活性化へ果たす役割に注目して解析を行う。
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